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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
だからといって、他人の生活に差し出がましく首を突っ込んではならないし、気まぐれに湧いた母性本能にかられて軽はずみに接していい問題ではない。
直樹を愛しく思い、あわれむことで、似たような不遇を持つ自分の心を一時的に満足させているだけかもしれないのだ。
――――(私が考えても仕方ないのよね)
テレビを消して手早くパフを滑らせながら、麻衣はそう思い直した。
が、麻衣の心の中にはやはり計りかねるものがある。
滝沢父子を、もはやまったくの他人として見ることができないのも確かだった。
そして、自分がかかわることではないと思おうとすると決まって、墓苑の坂を上がっていく滝沢のうしろ姿が忽然(こつぜん)ともたげてくる。
あのときの滝沢に対して抱いた感情がいかなるものなのか、どうも曖昧模糊としていて、いまだにはっきりと掴めずにいた。
多くの食材が並んでいるのに何を作ればいいのかわからない。そんな迷いとよく似ている。
――――(どっちでもいいことよ)
たいした問題ではない、と言い聞かせたとき、心のもやに滝沢が消えかかった。
それを追う気持ちに気づいて、麻衣はあわてて自分を律した。
心の中で組み上がりかけたものを、決して具体的なものにしてはならないと自制がかかる。
――――(まさか……ね……)
滝沢がじんわりと自分の中に入ってきている。
それだけは確からしいと、自分の気持ちを認めた。
油が跳ねるような外の暑さとは対照的に、スーパーマーケットの店内は冷房が効きすぎていて、麻衣は胸を抱えるように両腕を組んで売り場を見てまわった。
特売のキャベツを買い物かごに入れ、さて今夜は何しようかと思案した。
圭司は最近、ロケ先で空腹を我慢できずスタッフと食べることが多い。
早苗も同僚と食事を済ませて帰ってくることが増えた。
――――(みなさん、今日も遅いのかな)
暑さのせいで食欲が減退していて口に入れたいものがあまりないのだが、白身の花を咲かせた鱧(はも)の落としが目にとまり、これなら帰りの遅い圭司の酒肴(しゅこう)にもなるだろうとパックを手に取った。