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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
止まっていた時間が再び動きだすように、店内の買い物客が行き交いを始めた。
麻衣はお菓子の袋を拾いあげて、余計なことをしてしまったと後悔した。

――――(確かに、私バカだわ……)

どこの家庭にもそれぞれ事情がある。
教育やしつけにもそれぞれ違ったやりかたがあるのだろう。
それを見ず知らずの他人から口出しされれば、誰だって気分を悪くするに違いない。
母親は人前で恥をかかされたように思うだろうし、もしかすると、あの子がとんでもない悪さをしていたのかもしれない。
ここで叱っておくことが子供の為、と判断した上での叱責かもしれなかった。

母親が言うように、こちらには何の権利もないのだ。
母親がおなかを痛めて産んだ子を、母親がどう扱っても構わない。
そうでなければ、さっきテレビでやっていたような、あんなむごたらしい事件は起こりようがない。
母子の絆には、そういうものも含まれているのかもしれない……。

『そんなの私にはわからないわ』

心の中でそうつぶやいて、買い物かごに入れたキャベツと鱧のパックを棚に戻し、何も買わずに店を出た。
相変わらず天気はいいが、麻衣の気分はちっともすぐれなかった。

――――(駅前にでも行こうかな)

人ごみに混ざってアクセサリーでも見よう。
たまには外で甘いものでも食べて気分を晴らそう。
それがいい、それがいい。
なかば無理やりではあったが、気分転換にそう考えた。

バイクのシート下にかばんを入れようとしたとき、携帯電話が鳴った。
着信表示を見て、麻衣は胸にこみ上げるものをおぼえた。
滝沢だった。

《もしもし滝沢です。
 お忙しいですか?》

『いえ、大丈夫です』

はつらつとした滝沢の声に、麻衣はなんだか救われたような気がして、声を弾ませた。

《海浜公園にいるんです。
 よかったら
 遊びにいらっしゃいませんか?》

『はい、行きます』

そう答えてすぐ麻衣は、あまりにあっさり返事してしまったことをはしたないな思った。

《あ、よかった。
 今、噴水のところで遊んでます。
 そこで待ってます》

滝沢の声色は明るい。
麻衣は、わかりました、と電話を切って、すぐバイクのエンジンをかけた。
晴天をよろこぶ気持ちがいっぺんに湧いた。


 
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