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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 

日ざかりの駐輪場にかげろうが揺れていた。
ヘルメットを外した瞬間、なだれこんできた蝉の鳴き声が麻衣の耳の中をいっぱいにした。
バックミラーをのぞきこんで髪を整え、さらに顔を近づけて化粧を確かめる。
お出かけ用の、仕事でつけるものより少し明るめの口紅に夏の陽が反射していた。

樹木におおわれた遊歩道の先にある噴水広場の方から、子供たちのくすぐったそうな笑い声と歓声が真っ青な空に突きあがって聴こえてきた。
麻衣の足は自然と速まる。

大きな植え込みを回りこむと視界がひらけ、噴水のしぶきを射抜いた陽光が麻衣の目のなかできらきらと弾けた。
水着の子もいれば、下着のままで水びたしになっている子もいて、大きな噴水を囲う「じゃぶじゃぶ池」と呼ばれる浅い水たまりは、子供たちにとって格好の水遊び場となっていた。

手を振る滝沢を噴水の向こう側に見つけ、麻衣も大きく手を振った。
きょろきょろと麻衣をさがす直樹を抱きあげた滝沢が、あそこにいるよ、と指差して直樹に耳打ちしている。
麻衣を見定めた直樹が嬉々として手を振った。
目を見ひらいて歓ぶ直樹の表情が麻衣の胸を熱く満たした。

父親の手を振りほどいた直樹は、じゃぶじゃぶ池をまわって麻衣のもとへ駆け、前かがみに両手を広げた麻衣の足に取りついて、ゴムまりのように体を跳ねさせて抱かれたがった。
手首には麻衣のシュシュが巻きついている。

麻衣はまったく躊躇せず、直樹を抱き上げて頬ずりした。

『うーん、逢いたかったわ』

胸のうちの思いが自然に言葉になった。
噴水ごしにその様子を見守る滝沢に会釈すると、滝沢はいつものように折り目正しく頭を下げた。


 
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