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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
一時間ほどのあいだに直樹は水に慣れ、最後にはパンツ一枚で全身水びたしになるまでに水遊びを楽しんだ。
今までは知らない子に話しかけられると、びくびくして逃げてきたが、たどたどしくではあるものの、懸命に受け答えしようとする姿があった。
テニヲハをまだ上手く扱えない直樹の話し方は、相手の子供に首をかしげられたり、バカにされたりしていたが、それでも直樹は、真顔で口をとがらせて考え、どうにかして思いを伝えようと努力しているようだった。
あれほど水を怖がっていた直樹が水遊びを楽しみ、苦手だった他人とのかかわりを持とうとするようになった。
そういった直樹の変貌のひとつひとつが、滝沢には大きな驚きであった。
おそらく直樹は、篠原麻衣という信頼できる人間がそばにいることで安心を得たのだろう。
安心は直樹に自信を授け、それが少しずつ、自分を前へと押し出す力になっている。
子供の成長は周囲の環境によって大きく左右されるというが、まったくその通りだと、滝沢は思った。
直樹の母親に篠原麻衣が―――。
そんな白昼夢が一瞬、滝沢に見えた。
正午を過ぎて陽射しはいっそう強くなり、山の向こうには巨大な入道雲が湧きあがった。
芝生広場はにわかに混雑しはじめ、あちこちでレジャーシートとパラソルの花が咲きはじめた。
『そういえば、
今日、花火大会でしたね』
滝沢が思い出したように言った。
麻衣は周囲を見まわした。
『それで人が増えてきたんですか。
早くも場所取り?』
『ええ、
ここは遮るものがありませんから、
例年混雑しますよね。
篠原さんのおうちからも
よく見えるんじゃないですか?』
麻衣は首をかしげた。
港の突堤から毎年花火が打ち上げられるのは知っていたが、倉庫でむかえる夏は今年が初めてで、どんなふうに花火が上がるのか見たことがなかった。