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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
直樹の唇の下に張りついた錦糸卵を麻衣がつまんで直樹の口にやると、つまんだ錦糸卵は小さな唇につるっと吸いこまれた。

『おいしい?』

直樹はうなずいて、おいしい、と両手をあげて笑った。
にぎやかに飾られた滝沢家の食卓に笑顔の花が咲いた。

おろししょうがを溶いて小鉢にとった素麺をすすったとき、突然、麻衣の胸にずきりと痛みが走った。
得体の知れない衝動であった。
幸福感に浸りきった心を巻き上げるように、胸のうちで何かがカラカラと音をたてた。
麻衣は息を止め、箸を持ったまま胸に手をあてて、かすかな嘔吐感を押さえこんだ。

『大丈夫ですか?』

滝沢の心配そうな目線をまぶたでさえぎり、とんとんと胸を叩いた麻衣は、こみあげたものを無理やり飲みこんで、

『大丈夫です。
 別のところに入ったみたい』

と笑顔でごまかした。
自分の中の何かが黄色信号をともし、私に警告を与えているのだ、と麻衣は気を引き締めた。
今夜は滝沢父子との最後の晩餐だ。
多少の相克(そうこく)があったとしても、この人間関係から今夜私はおりるのだと、自分自身に言い聞かせた。


 
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