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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
映画や小説なら、そろそろ半透明になって出てこなきゃいけないんじゃないか?
俺が作者ならそうするけど、俺たち家族の物語はどうもそうじゃなさそうだ。
まったく、気がきかない作家だよ。
留美子、お前に感謝してるんだ。
直樹を産んでくれて。
頑固なチビ助だけど、かわいくてしょうがない。
俺の生きがい、いや、俺のすべてだな。
ありがとう。こんなにも素晴らしい宝物を俺に残してくれて。
大切に育てる。心配するな。
それより見てくれ、直樹の食べっぷり。すごいだろ。
直樹だけじゃない。
俺だってメシが旨いと思えたのは何年ぶりだろう。
篠原さんっていう人だ。
かわいらしくていい人でね。お前にそっくり。
直樹が初めて心を許した人だよ。
花火を見に、遊びに来てくれた。
俺が湯がいた素麺を食べてもらってる。
なんだかお前と一緒に食べてるような気がしてね。
人と会うことが嬉しいなんて思ったのは、久しぶりなんだ ――――。
素麺を口に運ぶ麻衣をさりげなく視界にとらえながら、滝沢はふと思った。
もしかすると、留美子が篠原麻衣と自分たちを引きあわせてくれたのではないだろうか、と。
――――(そんな、おあつらえ向きの話はないか)
都合の良い思いこみだと、滝沢は自嘲気味に首をすくめた。
潮の香りをのせたゆるい風に、束ねたカーテンのすそが揺れ、麻衣が外に目をやると、夕日を飲みこんだ海に群青のとばりが下り、沖合いをゆく商業船のともし火がまたたいていた。
ほとんどの具材を平らげて息をついた滝沢が時計を見た。
『もうそろそろですよ』
麻衣は期待に眼を潤ませて、胸の前でこぶしを揺すった。
『ワクワクしますね、楽しみです』
ベランダに出た滝沢は、アウトドア用の折りたたみ椅子を組み立て、冷蔵庫から出した新しい缶ビールを麻衣に持たせた。
キッチンへ戻ろうとした滝沢に、麻衣が片づけを手伝うと申し出たが、滝沢は『お客にそんなことはさせられない』と、麻衣を折りたたみ椅子へうながし、チャイルドチェアから降りたがって手足をばたつかせる直樹を抱きおろした。
いつもより少し重く感じ、『よく食べたなぁ、おりこうさん』と直樹の頭をなでた。