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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
突堤の先の暗闇が一瞬光った。
麻衣は、いよいよという心構えで、突堤の上空に目を凝らした。
火球がヒュルヒュルと炎の尾をひいて一直線に漆黒の空を昇る。
ちぎれた炎の尾が残照となり、火球は徐々に輝きを失い、わずかの時間、夜空が闇を取り戻した。
瞬間、白光が一閃し、闇を引き裂くように花火がはち切れた。
麻衣の眼前で無数の小さな火花が巨大な光の球体となり、色鮮やかにふくれあがる。
ほんの一瞬遅れて、野太い轟音が空気を破って麻衣の体を揺るがせた。
『わぁっ! きれい!』
麻衣は思わず立ち上がり、手を叩いた。
足元の港通りから『おぉっ!』と歓声が湧き、マンションのあちこちで喝采が起こった。
数え切れないほどの小さな光の玉は、散らばった先でさらに小爆発を繰り返し、膨大な数のきらめきで空を埋め尽くす。
『きれい……』
花火は、港町に降りかかる前に銀色の残像となってゆく。
人々の拍手が麻衣の足元にうねり、それが鳴りやむ前に次の花火が炸裂した。
今度は複数の球体が夜空に膨れあがった。
光の輪は互いに弧を交えながら夜空にさんざめき、港町の夜さりを色とりどりに染めて、真黒な海に照り返した。
そこからあとは狂い咲くように打ち上がる花火が、見物客の拍手と歓声を休ませることなく夜空を彩り続けた。
片づけを終えた滝沢がベランダに顔を出した。
『どうですか?』
『ものすっごくきれいです。
圧倒されます』
麻衣が興奮気味に言うと、滝沢は
『喜んでもらえて、よかったです』
と、缶ビールの栓を開け、窓枠の敷居を椅子代わりに腰を下ろした。
麻衣も椅子に座り、まとわりついてきた直樹をひざの上に座らせた。
光の華は絶え間なく夜空に咲き続けた。
滝沢は缶ビールやつまみを取りにキッチンへ行ったりしたが、麻衣は刻々と変わる多色使いの夜空に釘付けになっていた。
ときどき変わった形のものが上がったり、輝度の高いものが上がるたびに感嘆の声をあげて喜び、特に言葉を交わすこともなく花火を楽しんだ。