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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
食器類の整理を終わらせた麻衣が、ダンボール箱をたたむ圭司に頭をさげた。
『あとは小屋ができてから荷ほどきします。
ありがとうございました』
かたづけに一応のめどがついて、ふたりともに腰を伸ばした。
両手を挙げて背すじを伸ばす麻衣のポロシャツが体に貼りついて、丸い胸が突き出た。
――――(デカっ!?)
きゃしゃな肩幅には不つりあいな胸の大きさに驚いて、圭司は一瞬、眼を瞠(みは)った。
下腹から続くなだらかなラインが、みぞおちあたりで急峻(きゅうしゅん)に盛り上がり、麻衣が伸びれば伸びるほど胸のふくらみは窮屈そうに変形し、ポロシャツの上にブラジャーの線を浮きたたせた。
圭司は喉をおりていく生ツバをできるだけ静かに飲みこんで、不自然にならないように視線をはずし、ワゴンの鍵をポケットにさがした。
『買い物いこうか。
他にもいろいろ、案内するよ』
圭司のうわずった声に、麻衣は無防備な笑顔でこたえた。
倉庫から二十分ほど車を走らせると、郊外型の大型店舗が軒を連ねるようになる。
その一角に食料品をあつかうスーパーマーケットがある。
店の入り口で麻衣がカゴをとると、圭司はおもむろに麻衣の手からカゴをとって、てらいもなく自分が押すカートに乗せた。
何でもない圭司の行為に、麻衣は胸に甘酸っぱいものをおぼえた。
引越しのときも、両手がふさがっているときにゴミ袋をひろげてくれるとか、閉じかけたドアを開けてくれるとか、ひとつひとつは些細なことだが、そこにはいつも見守りの眼差しがあって、よろめく他者にそれとなく手をそえるような、やさしい気配を感じた。
失くしかけていた「嬉しい」という心の弾みを実感させられる。
それもおしつけがましくなく、とても身近に。
きのうの夕方までの自分と今の自分は、まったく違う心持ちで生きている。
その境目にいるのが、カートを押して隣を歩くこの人なのだ。
あの場所で自分を見つけてくれていなければ、今も男のアパートで泣いていたに違いない。
もし、きのう少しでも時間がずれていたとしたら……。
そう思うと圭司との出会いに、麻衣は運命のようなものを感じた。
一目惚れの、その次ぐらいなのかな、と心の中で笑った。