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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
『嫌いなものないですか?』
麻衣の声がいきいきと弾む。
『うん、特にないなぁ。
からいのは苦手だけど』
『じゃ、私の得意でいいですか?』
『いいよ、うん、何でも食べる』
¨よぉし!¨
きょうはとことん美味しいものを食べさせるぞ、と気合の入った麻衣は、腕まくりするような気持ちで店内を見てまわった。
大きなしょうがを選び、ひき肉や豚のブロック肉をカゴに入れていく。
そのほかにも、様々な食材とみりんや片栗粉といったものもひとそろえ買いこむと、すぐにカゴがいっぱいになった。
『凄いね。片栗粉なんて
ウチに来るのは初めてだよ』
『普段どうしてたんですか?』
『土鍋でご飯たいて、
肉焼いたり、野菜焼いたり、
まぁだいたい焼いてたよ。
あとはまぁラーメンだね』
『かたよってたんですね。
病気になりますよ。
今日からは大丈夫です』
自分にも役に立てることがある。
この人たちに返せるものがある。
その思いが麻衣のよろこびへと変わるまでに、たいした時間はかからなかった。
その夜、早苗と渡瀬はいつもより早く帰ってきた。
早苗は帰るなり入り口で鼻をヒクつかせ、この家からおダシの香りがするなんて、とはしゃぎ、渡瀬はいつものようにクシャクシャの笑顔をつくり、匂いにつられた野良猫が倉庫の前に集まってたと笑った。
皆でキッチンをかこみ、麻衣の料理に目を凝らした。
手際の良さや包丁さばきもさることながら、味付けもよく、煮物を味見すると誰の顔からも驚きと笑顔がこぼれていた。
圧力鍋からアメ色にしみた豚のブロック肉が出てきたところで、三人は手を叩いて喜んだ。
『すごいなぁ、こりゃ才能だな』
圭司が感心すると、渡瀬は腕ぐみをしてうなった。
『魔法を見てるみたいだ。
俺は台所に立ったことない。
俺からすれば
料理ができる人ってのは
魔法使いと同じなんだよ』
『そうよね。
しかも料亭レベルの腕前だわ』
皆が麻衣を絶賛した。
ひとかたまりの肉、丸ごとの野菜が麻衣の手によって形を変え、あらゆる方法で熱を加えられ、鑑賞にたえる色彩をもってリビングのテーブルに湯気を立てた。
アパートから持ってきたのはペアのものが多くてと、食器のふぞろいを麻衣は悔やんだが、三人は大きく首をふり、皿などどうでもいい、麻衣の料理は抜群だと口をそろえた。