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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 
仕方なく助手席の窓も全開にして修理工場を出ると、圭司はその足で洋介の知りあいが店長を務める中古車屋に向かった。
すすめられた高級車には目もくれず、展示場を歩きまわった末、一番安い七年落ちのワゴンを選んだ。
みてくれや過分な装備に興味もなく、そもそも車など移動手段のひとつとしか考えていない圭司は、最低限の機能を備えていればどんなものでもいいのだった。

仕事が忙しくなって、ある程度まとまった金を持てるようになったとはいえ、収入が不安定なフリーランスであることに変わりはない。
いま調子がいいからといって、それが未来永劫に続く保証などどこにもないのだ。
ローン審査もまともに通らない圭司にとって、新車などもってのほかなのである。

洋介の口利きで相当安くしてもらったが、それでも諸費用をあわせると五十万を越える見積もりになった。
結婚資金として貯めはじめた定期預金を崩すことになるが、多くの機材を擁(よう)し、時には僻地へも出張(でば)らなければならない稼業で、車がなければ仕事にならない。

――――(アマルフィがまた遠のくなァ……)

新婚旅行はイタリアに行きたいと熱望していた麻衣に申し訳ないなと思いながら、圭司は泣く泣く売買契約書にサインした。

予定外の寄り道で遅くなった黄昏どきの帰り道、ろうそくの灯のような代車のヘッドライトは、その役割をほとんど果たさない。
圭司は慣れない代車で裏道を行くのを嫌い、渋滞を覚悟して、普段めったに通ることのない駅前通りにつながる幹線道路を家路に選んだ。

猛烈な空腹をこらえ、タバコの臭いと渋滞にうんざりしながら、やがて圭司の車は駅前の大きな交差点へ出た。
長い信号待ちでぼんやり視線を遊ばせていた先に、駅の駐輪場から麻衣が出てくるのが見えた。
道路を挟んでそれなりの距離があったが、圭司は目が良い。
他人の空似ではなく、服装から髪型まで間違いなく麻衣だった。

あれ? っと圭司は思った。
冷蔵庫のカレンダーに麻衣が記した予定によれば、麻衣は今日、夕方四時からの準夜勤で、本来ならば今の時間、勤務中のはずなのだ。
予定が変わったのか、書き違えたのか、ともかく麻衣は高架下の歩道を駅に向かって歩いている。


 
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