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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
『この天津飯なんて高級店の味だわ』
『メシは俺が炊いたんだぜ』
『だからか、ちょっと堅いよな』
『あ、浩ちゃん、
お前、米も研げないくせに』
『はは、そうそう、食うだけ』
『すごいわぁ麻衣ちゃん。
あたしにも仕込んでよ。
まじめに習うわ』
『そんな、たいしたものじゃないです』
自信のある手料理を三人にふるまえたことが麻衣には歓びとなった。
この人たちにとって無くてはならない存在になりたい。
そんな麻衣の想いがひとつかなえられた。
皿の上にあったものをすべて胃袋に移しかえて、すっかり満腹した渡瀬が、
『洗い物は俺がやる』
と、立ち上がった。
慌てて腰を上げた麻衣に『いいからいいから』と言って早苗が食器を運んだ。
『いいんだよ麻衣ちゃん。
全部やっちゃダメなんだ。
あいつらの謝意なんだよ』
『でも……』
『こういう生活には大事なことさ。
今までとは違うかもしれないけど、
これで麻衣ちゃんに片づけまでされちゃ、
あいつらが困っちゃうんだよ』
立ちっぱなしでも座りっぱなしでもいけない、ありがとうの気持ちがあればそんなことにはならないんだ、と圭司は言った。
『さってと、お風呂洗ってくるかな。
沸いたら早苗と入ればいい。
今日は疲れたろ』
圭司は満腹をさすりながらバスルームへ向かった。
結局麻衣も加わってかたづけを終え、早苗と麻衣が風呂に入ると、圭司の小屋の戸を渡瀬が叩いた。
翌日から泊まりの仕事が入っていた圭司は機材の準備をしていた。
『いいか?』と小屋に入った渡瀬はワークチェアをくるっと回し、背もたれを腹に抱える恰好で座った。
『麻衣ちゃん、天使だな』
渡瀬はときに詩的な表現をすることがある。
『はぁ? どうした』
『いや、あの子は神の使いだと思うんだ』
渡瀬の唐突な発言に、圭司は少し嫌な気分になった。
麻衣に好意を持っているのかと勘ぐった。