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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
世には不可解なことが数多く起こる。
今しがた目の前に提示された状況を、どう理解していいのかわからなかった。
ただ漠然とした予感には、不穏な手ごたえだけがじわりと残る。
人智を越えたところには、よほど趣味の悪い巡りあわせを楽しむ輩(やから)が、やはりいるのだろう。
思いもしないところで辛辣(しんらつ)な光景をひけらかしてくれる。
まんまと出し抜かれた気がして、圭司はきまりの悪さに苦笑いした。
それにしても、麻衣を出迎えた男が誰なのか。
どうして麻衣は着信表示を見て電話に出なかったのか。
勤務時間のはずなのに、なぜ駅前の駐輪場から出てきたのか。
圭司はしばらくその場で考えたが、思い当たるふしはまったくなかった。
ゆうべ圭司は帰りが早く、倉庫で麻衣と食事をし、夜は自分の小屋で麻衣を抱いた。
その際にも変わった様子は感じられなかった。
疑念をふくらまそうにも、その手がかりになるものにあてがない圭司は、狐につままれたようなありさまに薄気味の悪さをおぼえ、口元に手をあてた。
――――(見間違いかもしれない)
そう考えなおし、そこに麻衣の原付バイクがないことを祈りながら駅の駐輪場へ走った。
横断歩道を駆け抜け、高架下の薄暗い駐輪場に入ったところで、祈る気持ちはため息に変わった。
麻衣のものと同型の原付バイクには、頭頂部が傷だらけの見覚えのあるヘルメットが座席の脇にぶら下がっていた。
身体の中を澱(おり)のようなものがゆっくりとただれ降りていくのを感じ、駐輪場から連れだって出ていく女子高生の笑い声が、自分をせせら笑っているように聴こえた。
車に乗ったのは麻衣に間違いないと確信した圭司は、みぞおちの引きつりを抑えながら車に戻り、運転席でもう一度大きなため息をついた。
『浮気してるのかなぁ……』
ふつふつと疑念が沸き起こる。
麻衣を迎えた男と麻衣の関係が何もわからないことが、ことさらに不安をあおってくる。
違法駐車を監視していた係員が、こんなところに停めるなと注意してきた。
圭司は、とりあえず車を出そうとハンドルの裏に手をまわしたが、キーをひねる手に力が入らず、なかなかエンジンをかけることができなかった。