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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
倉庫にはなんとなくうつろな空気が漂っている。当然、麻衣の出迎えはない。
キッチンで水をがぶのみした。
うろたえた気持ちから解放されぬまま、圭司は、駅前の出来事を念入りに整理してみた。
待て待て。
こちらが知らないからといって、すべてが隠し事になるわけじゃない。
勤めはじめてまだ慣れない職場で、やっと「話せる」同僚ができたのかもしれない。
スモークガラスで見えにくかっただけで後部座席に他の同僚も乗ってたかも……。
飲み会、そう! 飲み会、たぶんそれだ。
麻衣が嘘つくわけない。ましてや他の男と遊んだりするわけがない。
きょうが準夜勤だと書き違えたか、きっと予定が変わったんだ。
『ねぇよ。
麻衣に限って』
そう思いなおした圭司は、いっときでも麻衣を疑ったことが情けなくなり、たしなめるように自分の頭を小突いた。
テレビをつけようとソファに腰を下ろしたが、いつもの場所にリモコンがなく、クッションの裏を探ってみたり、テーブルの下を覗きこんだりした。
次第に探すことが面倒になってソファに体を預けなおしたとき、あれほど感じていた空腹感がまったくなくなっていることに気づいた。
それどころか縮み上がった空の胃に胃酸が噴出しているようで、異様な痙攣とむかつきを感じ、何度も胃のあたりをさすった。
それでもなお増していく不快感に耐えられなくなり、ローボードの引き出しに胃薬を探した。
胃薬を飲む前に腹に何か入れておいたほうがいいだろうと、もう一度キッチンに戻ろうとしたときメールが入った。
《ナースコールが続いたの。
電話気づかなかった。
ごめんね。何か急用?》
麻衣からのメールに、圭司は違和感をおぼえた。
これまで麻衣が勤務中に返信してくることはなかったのだ。
院内での携帯電話使用に厳しい麻衣の職場では、看護師であっても勤務中は携帯を持ち歩けず、「いまどき携帯の電波で誤作動するような医療機器なんて、ほとんどないのよ」と、麻衣はよく愚痴をこぼしていたのである。
『ん? 待てよ……』
辻褄の合わない事実に気づいた。
メールは勤務中であることを明言している。
――――(じゃ、なんで駅にバイクがあるんだよ)
傷だらけのヘルメットをぶらさげたバイクが、駐輪場にひっそりとたたずんでいた。
その映像が鮮明によみがえり、圭司の中に戦慄と胸騒ぎが生じた。