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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
スーツの男が運転するカローラの助手席で、勤務中を装ったメールを打つ麻衣の姿が脳裏を駆け抜け、圭司は背筋に蟻走感をおぼえた。
麻衣が、真実ではないことを自分に告げた――――。
それは、駅前にいたあの男との関係について、麻衣が隠さなければならない間柄だということを示している。
麻衣が嘘をついたという事実が揺るぎないものになったとき、麻衣を他人に盗られたくないという独占欲が圭司の腹の底で火柱を立てた。
男は体格もよく、いかにも世間に面と向かう、どこへ出しても恥ずかしくない風采だった。
麻衣は今、その男の手元にある。
『あぁ! くそっ!』
思わず圭司はくやしさを声にして、目をつむった。
ソファにくずれ落ち、背を丸めてうなだれた。
昨夜まで麻衣には、それと感じさせる素振りや言葉もまったくなかった。
不穏さのかけらも嗅ぎ取らせなかった。
いま思うと、それがいちばん恐ろしい。
嘘をついてまで麻衣があの男に会う理由は何だろうかと考えるうちに、圭司は、もっとも原始的で、荒々しさに満ちた感情に支配された。
男に駆け寄り、好奇心に輝いた表情で助手席に乗りこむ麻衣の顔を思い起こすと、ワインレッドのカローラがレストランの駐車場に入っていく光景や、着衣を乱した麻衣が男に組み敷かれる様子が、女を寝取られた自分自身をあざ笑うように、ありありと頭の中に描きだされ、胸を絞めつけてくる。
自分の恋人が、別の男の前で一個のメスになっている――――。
強烈な苦しさは、まぎれもなく嫉妬であった。
嫉妬に間違いなかったが、¨麻衣が今、俺を忘れている¨という焦りのほうが圭司の心を占めた。
麻衣は自分への愛情を失ったのだろうか。
自分にどんな落ち度があったのだろうか。
自分はもうすでに、麻衣の描く未来に全くかかわりのない人間になってしまったのではないか。
そう思うと、何も考えられなくなった。
どうやって明日からの日々を紡いでいけばいいのか……。
圭司は怯えた気持ちでソファに寝転び、高い屋根裏を見つめた。
耳の奥に響く強い脈拍を、うるさく感じた。