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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 

トラックターミナル行きの最終バスにギリギリで間にあった早苗は、ぎしぎしと揺れるバスの車内で、今日の午前、部長室で受け取った正式な転勤辞令にぼんやりと目を通した。
発つのは来月末。それ以降いつ帰ることができるのかわからない。
確約のない、いわば片道切符のようなものである。

圭司とのことについて一度は結論を出した。
けれども、その結論がどうしても正しいとは思えない早苗は、あきらめるのが当然の状況であるのに、あきらめを受けいれていない自分に納得していなかった。

あきらめが生きていくことの糧(かて)にはならない。
愛情の本質をわかっておきながら、それに目をつむって無感動に生きていくことはできない。
安藤佐和の告白と手首の傷に、早苗はそう教えられた。

早苗には覚悟ができていた。
圭司が自分を選んでくれるなら、夢も仕事もすべてを捨て去り、圭司の最高のパートナーとして生きる。
それが今の自分にとって最も抵抗のない生き方であるという確信を、いくつものあきらめの中から導き出していた。

終点のひとつ手前でバスを降りると、倉庫街は水を打ったように静まり返っていた。
手首の時計は深夜十二時になろうとしている。
街路灯の少ない閑散とした通りを早足で歩き、レンガ造りの棲家が見えてきたところで、早苗は一度深呼吸をし、心を引き締めた。

鍵を挿(さ)そうとして、鉄扉が少し開いているのを不審に思った。
誰かが帰っていれば高窓から明かりが漏れるはずだが、見上げた窓ガラスは墨を塗ったように黒く、窓枠が街路灯のあかりを反射させていた。
ガレージには見覚えのない小汚い軽自動車が、両方の窓を全開にしたまま停まっている。

物盗りが仕事をしている最中かもしれない。
早苗は、入り口の脇に立ててある火かき棒の柄を、そっとつかんだ。



 
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