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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
息をひそめ慎重に鉄扉を開ける。
リビングの暗闇に人影が見えた。
『誰かいるの!』
勝気な声を倉庫に轟かせると、暗闇から圭司の声が聴こえた。
『圭ちゃん?』
『うん、俺だよ』
早苗はホッと息をついて、照明のスイッチを入れた。
明るくなったリビングで、ソファに寝そべっていた圭司が体を起こした。
『どうしたのよ。電気もつけないで』
『ああ、つけるの忘れてた』
つかつかとソファに歩み寄った早苗は、圭司の顔色に精彩がないのをすぐに見てとった。
『元気ないわね、どしたの?』
『なんでもないよ』
気だるそうに立ち上がった圭司にもう一度声をかけたが、圭司は返事もせず、早苗の言葉から逃れるようにキッチンへ行った。
いっしょに暮らすようになって圭司がそういう態度をとるのは初めてのことで、いつになく連れない素振りの圭司に、早苗はただならぬものを感じた。
『早苗、食ってきたのか?』
キッチンから圭司の声がした。
『うん、食べてきた。
圭ちゃんまだだったの?
あたしも手伝うわ』
『作るほうか? 食うほうか?』
冷蔵庫の中を物色しながら圭司が冗談めかして言うと、早苗は、笑う機会を得られたことが嬉しくて、
『飲むほう』
と声を弾ませた。
圭司がそれほど沈んでいないことに、早苗の懸念は少し晴れた。
ボイルしたソーセージを皿に盛り、二人で缶ビールを開けた。
ビールが通過するたび上下に動く圭司の喉を見つめながら、早苗は、こんなふうにキッチンで立ち飲みするのは久しぶりだなと思った。
以前は仕事の愚痴や将来の夢をこのキッチンで語らい、ビール片手に気楽でうちとけた時間を楽しんだものだった。
そんな時間が今になって、とても懐かしく貴重なものに感じる。
いつまでも、こうしていたい。
早苗はそう思った。