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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
シンクに腰をあてて、間を繕うように圭司が訊いた。
『仕事どうだ、忙しいのか?』
『うん、そうね』
ビールを含みながら早苗は、話を切り出すタイミングをはかる。
転勤の件を話さなければいけない。
もっと大事な話が、他にもある。
『不倫してたヤツ。
きちんと切れたのか?』
早苗は出ばなをくじかれた。
うん、とうなずいたが、急にそんなことを訊いてくる圭司をいぶかしく見あげた。
『守るべき人があるのに、
浮気や不倫ってものに走る感覚が
俺にはわからんが、
それってなんでなんだ?
よくあることなのか?』
『どうしたの? 圭ちゃん。
何かあったの?』
早苗が心配そうに眉根を寄せると、圭司は早苗の視線を外して首をふった。
胸の中にわいてくるさまざまな言葉を喉の奥へ押し込むかのように、噛みちぎったソーセージをビールで流しこんだ。
早苗に対して今の心情を晒すことは、それがいかにずるく卑怯なことであるか、圭司は充分解っている。
『深い意味はないよ。
ただ、よくわかんないだけさ』
圭司はおだやかに微笑んだが、早苗には圭司のおだやかさが、ぎりぎりのところで保たれているように映った。
口ぶりもどこか苦々しい。
あたしに何かを気取られまいとしている、そう感じた。
早苗はわざと無邪気をよそおい、腰に手をあてて細い肩をそびやかした。
『いいわよ、何を訊いてくれても』
圭司は鼻から息を抜くようにして笑い、早苗の肩をポンと叩いた。
『いや、いいんだ』
圭司が微笑むと、早苗はむくれたような表情で、
『変な圭ちゃん』
と、への字に唇を曲げてそっぽを向き、肘を張ってビールを口にした。
考えないようにしようとすればするほど、駅前でのことが圭司の中で頭をもたげた。
勢いよくビールを喉へ通したものの、焦燥感はどこにも消えていかない。
今このときも、麻衣とあの男の関係が進行している。
どこかで阻止しなければ、取り返しのつかないことになりそうな気がして、圭司はどこにいるかもわからない麻衣を探しに出ようと決めた。