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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
『どういう……関係?』
恐る恐る圭司が訊くと、麻衣は、
『おつきあい……してます』
と小さな声で答えた。
たどたどしくもあらたまった麻衣の言葉づかいが、やけに麻衣を遠い存在に思わせた。
『おつきあいって……』
圭司はその先をどう訊こうか、また訊くべきかどうかを迷ったが、わずかな期待を込めて言葉を選んだ。
『男と女の関係……ってこと?』
そう訊きながら、圭司は吐き気をもよおした。
麻衣が『はい』とうなずいたとき、一瞬、麻衣と男が抱きあう姿を思い描き、胃酸とともにさっき食べたソーセージが喉元まで逆流してくるのを感じた。
喉を吊り上げるようにしてすっぱいものを飲み下し、みぞおちをさする圭司の頭に浮かぶのはセックスの最中の麻衣の姿だった。
そして、見えにくかったにもかかわらず、あの男の面影がはっきりと浮かんでくる。
圭司はゆうべも麻衣を抱いた。
どれぐらいの期間かはわからないが、その男と交代で麻衣の肉体に身を投じていたということになる。
男が麻衣を抱いたあと圭司が、そのあとにまたあの男が。
ある期間、そんなことが繰り返されていた。
生々しい想像が圭司に怒りを滾(たぎ)らせる。
激情のただ中で圭司は、目の前の麻衣の雰囲気に艶やかさを感じた。
いつもより美しく色気づいて見える、それが余計に圭司の怒りをあおった。
『そうか……』
圭司は、自分の表情が誰にも見せたことのない、ゆがみを帯びているであろうことを自覚した。
ソーセージに突き立ったフォークが目に入り、視線をすべらせると、ナイフブロックに何本かの包丁がすぐ手の届くところにあった。
あの男を殺したら俺はどうなるだろう……。
怒りが噴きあがり、男に対して抱いた殺意が圭司の拳を震わせた。
侮蔑(ぶべつ)の言葉を感情のままにぶつけ、完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめしてやろうと、拳をにぎりしめて麻衣を睥睨(へいげい)した。
『誰なんだ?』
『公園で保護した迷子のお父様。
奥様を亡くされて……。
あの子はまだ五歳。
お母さんがいないの……』
怯えながら答えた麻衣の言葉に圭司は混乱した。
『その人がどうして……』
圭司の脳裏にあの日のことが、舞い散る桜の花びらの向こうに浮かび上がった。