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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
要するに自分たちの関係は、たった今、不誠実というものに破壊され変質してしまったということだ。
けれども冷静に大局をみれば、麻衣が犯した裏切りや自分の被害意識など、取るに足らないことのようにも思えてくる。
不妊に悩み、¨生まれてきた理由¨について答えを得ようとしていた麻衣は、多くのジレンマの中で今まさに、その答えをつかみかけているのかもしれない。
それをあきらめさせ手元に麻衣を置いておくことが、果たして麻衣を¨愛する¨ということなるだろうか。
幸福をつかもうとする麻衣の指を、無理やり逆さに折り返すのと同じことではないか。
きょうこのときを迎えるまで、麻衣は別れを切りだせず、申しわけない気持ちで虚言の日々を過ごしていたのだろう。
多くの葛藤と闘い、追いつめられ苦しんだはずだ。
麻衣を愛する一人の人間として、わかってやらなければならない。
幸福を麻衣の手に握らせようとし、惜しみなく愛し抜くと腹を決めたのだ。
覚悟を定めた麻衣の選択を尊重し、麻衣に道をあけてやるべきだろう。
それが、愛し抜くということなのかどうかはわからないが、もう自分は求めらてはいないのだから……。
『俺が嫌いか?』
そう圭司に訊かれた瞬間、麻衣は固く目を閉じた。
圭司の言葉は、熱せられた鉄板の上に水をまいたみたいに、麻衣の心に音をたてた。
――――(嫌うだなんて……)
麻衣は何度も顔を振った。
崩れきった泣き顔で圭司を見上げ、胸の前で白い肌が真っ赤になるほど、両手の指をぎりぎりと絡めた。
――――(愛してる……)
麻衣は心の中で何度も圭司に答えていた。
嫌いになったことなんか、一度もない。
あなたをいちばん愛している、と。
けれども、決して言葉にしてはならないと唇をかんだ。
愛を理由に、この人にふさわしい人生と幸福を奪ってはならない。
愛を理由に、私は裏切ったのだ。
私の卑劣な裏切りに対して、もっとも汚い言葉で、あらんかぎりの罵声を投げつけられたとしても、決して許しを求めてはならない。
理解を得ようとしてはならない。
泣くな、泣くな。
この期におよんで涙など許されない。
これは私の選んだ道なのだから。
私の幸福の在りかは、私にしか分からないのだ。
誰とも競いようのない特別な場所。
私はそこへゆく。
他者を理解する力に従って――――。