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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
『まぁ、そう熱くなるなよ。
病気悪くするぞ』
《そんなことはどうだっていい。
麻衣ちゃんも、麻衣ちゃんだ。
つらいときに助けられたのに。
それを裏切るなんて、
普通、できることじゃないよ》
『いや、まぁ、そうなんだけど。
いろいろ事情がさ、複雑で。
な、浩ちゃん』
同情を示すつもりで言ったのだろうが、渡瀬に悪く言われる麻衣を、圭司は気の毒に思った。
《だってひどすぎやしないか。
人として不義理を感じるよ。
あの子は圭ちゃんと出会ってなかったら、
今頃どうなってたかわかんないんだぞ。
新しい男ができたからって、
衣替えするみたいに出て行くなんて。
人を踏み台にするような、
そんなヤツはどこにいったってダメだ》
どうやら渡瀬は本気で怒っているらしかった。
事情を知らない者からすれば、麻衣は悪女に映る。
麻衣はきっと、渡瀬にもいっさい自己弁護しなかったのだろう。
そうした態度に、圭司はすがすがしいものを感じた。
『なぁ浩ちゃん。
これだけのことしてやったんだって、
恩着せて麻衣に請求書でも出すのか?
麻衣だって、たくさんしてくれたんだ。
出てったのはさみしいけど、
非難するのはおかしいよ。
俺はちゃんと覚えてる。
自力がつくまで
ひとりでいない方がいいって
俺が倉庫へ引っ張り込んだんだ。
ただのおせっかいだよ。
不義理でもなんでもないし、
もしそうだとしても、
誰かが麻衣を罰することはできないよ。
あいつは自分の生き方に
やっとの思いで向き合えたんだ。
麻衣は自分の生きたいように、
生きていい立場なんだよ』
なだめるように圭司が言うと、渡瀬は、やりこめられたというような嘆息を電話口に吐いた。