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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
《残念で、しょうがないよ。
でも俺は納得いかない》
麻衣を失うことは、渡瀬にとっても痛恨事であるにちがいない。
渡瀬は渡瀬なりに、大切な仲間のひとりとして麻衣を愛し、信頼し、よくできた妹を思うようにかわいがってきた。
それだけに、麻衣がいなくなることが悔しくて、さみしいのだ。
圭司にはそれがよくわかっていた。
《圭ちゃん、つらいよな?》
『つらいにきまってんだろ。
思い出に変わるまでにゃ、
時間かかるぜ』
紛れもない本心であったが、圭司は軽い調子でおどけた。
いまさら重苦しく考えこんだところで麻衣は戻らない。
《俺たちのまわりの女どもは、
いったいなに考えてんだ。
男を見る目がないんだよな。
あぁ、かわいそうだ》
『ほんと、なに考えてんだか。
俺には一生わかんねぇな』
《退院したら呑みにつき合うよ。
ウーロン茶だけど》
『ああ、しらふのお前に、
これでもかってぐらい、
悪酔いして絡んでやる。
覚悟しとけよ』
《いくらでも訊いてやるよ》
圭司は、やはりこいつと友達でいてよかったと渡瀬に感謝した。
渡瀬が声をあらため、早苗には話したのかと訊いた。
『いやまだ何も話してない』
早苗に転勤辞令が出ていることを思い出した圭司が、それを言おうとしたとき、渡瀬が先に言った。
《なぁ圭ちゃん。
早苗の気持ちわかってるんだろ?》
『何? 気持ちって』
《早苗のだよ》
『それがどうした?』
《少し応えてやれないか?》
圭司は黙った。
一拍ずれているというのか、渡瀬の正直さがデリカシーのなさに感じられた。
あてつけでも皮肉でもなく、渡瀬は言葉の爆弾を落とすことがある。
渡瀬自身に人を貶めようという邪気がひとかけらもないところが、かえって周囲の手に負えなくなるのだと、圭司は短いため息をついた。