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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 
その日のロケ終了間際、中古車屋から圭司に連絡があった。
店長は圭司のために相当骨を折ったようだった。

『いつ来てくれてもいいですよ。
 とにかく急げって
 洋介が言うもんだから、
 きのう今日と走り回りましたよ』

ふつうなら一週間程度かかる納車手続きをわずか二日で済ませてもらえたのは、代車の惨状を圭司に聴かされた洋介が、手続きを急ぐよう店長へ強く口添えしてくれたからだった。

あのタバコ臭から開放されると思うと、圭司はそれだけで気が楽になった。
早速、帰り道に修理工場へ立ち寄って修理工を乗せ、中古車屋へ向かった。
修理工には代車を引き揚げてもらわなければならない。

『もう段取りつけたのか。
 のんびり屋の圭司クンにしちゃ、
 仕事が早かったね』

油まみれのガサガサした指先を首にかけたタオルでふきながら、代車の助手席で修理工が言った。

『この臭いにはもう降参だよ。
 ひどすぎる。
 臭いだけで病気になりそうだ』

圭司のしかめっつらに修理工はころころと笑った。

『そのおかげで、
 手際よく乗り換えできたんなら、
 そりゃ感謝してもらわなきゃ』

『それもそうだけどね』

『病気と言やぁ、
 渡瀬クンの具合どうなの?
 梅雨どき見舞いに行ったきりだ』

修理工は、渡瀬の車がそろそろ検査の時期だがどうするつもりだろうかと言った。
月ン中の常連で二番目に年かさの、「おやっさん」とあだ名される修理工は、圭司が専門学生のころからのつき合いで、圭司の仲間内の、ほぼすべての車の面倒を見ている。

『まだ入院してる。
 少しずつ良くなってるけど、
 退院するまでにはまだかかるよ。
 運転はしてもいいはずだろうから、
 車検は受けとかないとね。
 鍵預かってるし、おやっさん、
 いつでも持ってってよ。
 浩ちゃんには俺から言っとく』

『そうかぁ、
 長くかかる病気だよなぁ。
 退院したら、ちょっとは上手に
 呑めるようになるんだろよ』

『それが一滴も呑んじゃだめなんだ。
 死ぬまで』

『死ぬまで?』

大げさに驚いたあと、修理工は顔の真ん中にくしゃりとしわを寄せ、

『そりゃ、かわいそうだろうよ』

と、うつむいて残念そうに首を振った。


 
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