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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
料金所でチケットを引き抜き、思い切りアクセルを踏みこむと、ワゴンは速度を上げるほどしっくりと路面になじみ、大がらな車体を安定させてハイウェイの流れに乗った。
都会の灯りが遠のいてゆく。
等間隔にともる道路灯の連なりが視界の奥の山あいに飲みこまれ、その景色が圭司には、山肌をはいのぼる大蛇が背を曲げているように見えた。
トンネルを幾つか抜けるとFMの受信が途切れるようになり、ラジオのスイッチを切った。
路面を転がるタイヤの音だけが低く車内に響いていた。
一時間ほど走ったあたりでサービスエリアに入った。
トイレを済ませてワゴンへと歩いていたとき、圭司の携帯電話が鳴った。
麻衣の父からだった。
麻衣が今回のことを父親に報告したのだろうと悟ったものの、どういう態度で臨もうかと圭司は思案した。
いっそこのまま出ないでおこうかとも思ったが、着信音は止む気配もなくずいぶん長く鳴り続け、行き交う人々が画面を見つめる圭司へ怪訝な目線を向けた。
思いもよらない相手からの着信に、圭司はさまざまに考えを巡らせながら、気持ちが定まらないまま勢いだけで電話に出た。
落胆を感づかれないように、あえて声を張って電話に出たのは、麻衣を悪者にしたくなかったのと、つまらない男の意地でもあった。
『白石さんですか?
篠原です。
申し訳ないっ!』
電話口の向こうで平身低頭に頭を下げる麻衣の父の姿が、圭司の脳裏に浮かんだ。
瞬間、圭司の心がしおれた。
『あぁ、そんな。
僕がいけないんです』
会話は何も進んでいないのに、そんな言葉が圭司の口をついて出た。
圭司は一瞬、代車のタバコ臭を鼻腔の奥に思い出した。
麻衣の父は、『白石さん、白石さん』と電話がつながっていることを確認し、
『会わせる顔などあったものではないですが、
娘の非道を詫びさせてください。
どこかで会っていただけませんか』
と願い出た。
そんなことには及ばないと恐縮する圭司に、麻衣の父は、約束もせず押しかけるのは失礼極まりないことだが、きょう娘から話を聞いてじっとしておれず、実は倉庫の最寄り駅まで来ていると言った。