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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
今は出先で倉庫にいないことを圭司が言うと、倉庫におられないのであれば、御座ある所へ万難を排して参上したい、どうか時間をいただけないか、と父は食い下がった。
さらには、このたびのことは謝罪してもしきれない、白石さんにあっては、心のままに身を振った娘を許せるものではないと思う、白石さんのような、未だかつてない良人を夫にできない娘が嘆かわしい、またそのような人物の心を乱してしまったことが悩ましく、父親として自分は、その点で責任を免れるものではないと感じている、と麻衣の父は娘の不義理をひたすらに詫びた。
一般的な世間のあいさつにありがちな軽薄さは電話口にない。
礼節と心苦しさに満ちた切実な詫び言に、圭司は、麻衣の父の気持ちを汲み、謝罪などにかかずらうことなく会ってみようかという気になったが、対顔してまでこの篤実(とくじつ)な父親に肩身のせまい思いをさせることもない、という気持ちがまさった。
圭司は、お気持ちは充分に感得し、また自分もなぐさめられた、どうか気にやまないでほしい、すべて納得の上の破談で自分は腹を立ててはいないと伝え、
『麻衣さんの幸福を
心から願っています』
と真情を述べた。
いくらか押し問答のようなやりとりの末、圭司は麻衣の父を気づかい、申し出を丁重に辞退した。
電話を切った圭司は、父の話しぶりから、麻衣が完全に倉庫から去ったことを知った。
潔癖な性格の麻衣は、すべてを終えて父へ事の次第を報告したのだろう。
新しい生活に少しでも早く馴れるため、未練によって決意をゆるがせにしないためにも、麻衣のこれからを考えれば、一日も早く倉庫を出たほうがいいだろうと圭司は思っていた。
けれども、とうとう麻衣が倉庫から出て行ったのだと思うと、ふいに、大声で悲鳴をあげたくなるほどのわびしさに襲われた。
麻衣に逢いたくてどうしようもない気持ちが湧いた。
麻衣を抱きしめることができなくなった今の自分に、何の価値もなくなったような気がして、いっそう心が屈してきた。
山間部を切り開いた広大なサービスエリアには、抜け上がる夜空に数多(あまた)の星がまたたいている。
―――― あそこに、行きたい。
その思いだけが、圭司を立たせていた。