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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 

仕事仲間との送別会のあと、タクシーで倉庫に帰り着いた早苗は、小屋の扉に挟んであった麻衣からの置き手紙で圭司と麻衣の決別を知った。

最初に手紙を読んだとき、たちの悪いイタズラだと思ったが、丁寧に記された文面を読みすすめるうちに、その手紙が紛れもなく自分に宛てられたものであり、かつ二人の別れが事実であるとの理解に及んだ。

「ありがとう」が幾つも目につく三枚の便箋は、早苗への感謝の言葉で埋め尽くされたていた。
具体的な別れの理由は何も書かれていない。
けれども、二日前のキッチンでの圭司の様子を思い起こすと、その理由が麻衣の心変わりであろうことは、早苗にたやすく想像できた。

動揺を抑える方法を探しながら、麻衣の小屋を覗いた。
中はもぬけの殻でゴミ一つ残されていない。
キッチンも物干し場もきれいに片づけられ、洗濯物はたたんでそれぞれのかごに入れてある。

早苗は奇妙な喪失感に襲われ、洗面台に手をついた。
こめかみがきりきりするほど脈打っている。
不意に腹立たしさがこみ上げ、唇をかんだ。

いわれなき侮辱を受けたような、この怒りはいったい何だろう―――。
確かに自分は麻衣から圭司を奪うことを決意し、それを実行に移そうとした。
その矢先、突然の心変わりによって麻衣は姿を消した。

自分が命の底から欲してやまないものを、麻衣はいとも簡単に、あっさりと、行儀よく手放したのだ。
生臭い嫉妬とあきらめを幾度となく繰りかえし、翻弄され続けたこの一年間は、いったい何だったのか。
降ってわいたように現れ、他人の恋路に横やりを入れ、あまやかな幸福を堪能したあげく、倉庫の人間関係のことごとくを破綻させて、あの子は消えた。
これは篠原麻衣による、あたしたちへの冒涜だ。

『勝手すぎるわ!』

早苗はトートバッグを床に投げつけた。
天井を仰いで髪の根をつかみ、困ったことになったと狼狽した。

麻衣がいなくなることは予想だにしなかったことで、それを願いこそすれ、実際に叶うものだとも思っていなかった。
だが、ここへきてそれが現実となった。
その事実は、願ってもないチャンスを手にしたという賤(いや)しい喜びよりも、はるかに大きな拒絶の恐怖を早苗の心中に再び横たわらせた。


 
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