この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
早苗は怒りを噛みつぶして腕を組みなおし、ビジネスでトラブルに見舞われたときと同じように、これまでの自分の考えをすべて疑ってみた。
そうすると、今まで麻衣を見ていた自分の視点が、嫉妬というきわめて狭窄(きょうさく)なフレームの中に押しこめられていたような気がしてきた。
――――(あたし、何か勘違いしてたのかな)
そう思ったとき、静まり返った洗面室に湯がたまったこと知らせるメロディーが響いた。
体を洗い、髪を洗うあいだも、早苗は心の中をつぶさに見つめ続けた。
そうして考えるうち、今の自分のありようが早苗の心に少しずつ見えはじめた。
ある意味では麻衣の存在が抵抗となり燃料となって、恋の炎を燃やし続けてきた。
だがそれ以上に、麻衣の存在は自分にとって、恋に臆病でいられることの大きな言い訳だった。
後生一生の圭司への告白が無念に散ったとき、それを慰藉(いしゃ)できるのは圭司と麻衣の安らかな幸福だけである。
それが期待できなくなった今、空き家になってしまった圭司が、もし自分を受け容れてくれなかったとしたら、自分自身をなぐさめる手立てはひとつも無くなってしまう……。
――――(あの子のせいにしてたのね)
自分の臆病さを棚に上げて、都合よく嫉妬に狂っていたのかもしれない。
嫉妬の矛先を麻衣に向けることで、自分をなぐさめて安心していたのだ。
結局、麻衣の存在が自分の逃げ道だった。
その逃げ道が無くなって、あたふたしている……。
ざばざばと湯をかぶった早苗は、頭にタオルを巻いて浴槽に滑りこんだ。
足を伸ばし、湯煙に麻衣との思い出をたどる。
初めて麻衣がここに来たとき、体を洗ってやった。
円(まどか)な麻衣の体と白く美しい肌に嫉妬した。
麻衣からにじみでる愛嬌にかなわないと思った。
思えばあの頃から、あたしは麻衣をねたんでいた。
だが決して嫌ってはいなかった。
優しさと可愛げで出来上がったような麻衣は、憎らしくも愛らしい妹だった。
だからこそ、あたしは、
『苦しかった……』
早苗は、痛みに耐えるようにまぶたを閉じた。