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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 

――――(無意味に人を傷つけるような子じゃないわ)

麻衣は頭のいい子だ。
訳もなく理屈の通らないことをする人間ではない。
圭司との別れも、そうせざるを得ない理由があってのことなのだろう。
きっと麻衣なりの正しいルールで選択したに違いない。
それによって彼女は、とてつもない決断をしたのかもしれない。
それならばたいした女だ。

『何があったのか知らないけど、
 必ず幸せになるのよ……』

誰に言うともなく素直な思いを口にすると、早苗の耳朶(じだ)に佐和の言葉が語りかけてきた。

 女が思うままに生きようとすれば、
 周囲からはみっともなく映るものよ。
 でもね並木さん、気にすることなんて、
 何もないのよ――――

早苗は、ハッとして顔を上げた。
佐和の言葉の真意に、やっとたどり着いた。

『プライドがあたしの邪魔をしてる』

自尊心が自分の本心を偽らせ続けてきた。
だが麻衣は他人の眼に映る自分の姿など構うことなく、己(おの)が愛を捧ぐものと真正直に向きあえる人間だったのだ。
麻衣が前の病院を辞めるとき、つまらないプライドでモタモタするなと、勇気づけたのは自分ではないか。
それなのに、自分は捨て身になる覚悟ができていなかった。
愛してほしいと、真剣にせがんだことがなかった――――。

そう気づいたとき、早苗は、心の中で絡まっていたものがほころぶのを感じた。
バスルームを飛び出し、体を拭くのもそこそこに、叩きつけたトートバッグに携帯電話を探した。

――――(あたしは、絶望しないわ)

自分の愛は、もはや執念のようなものかもしれない。
だがそれでもいい。
この愛の成れの果てがどんなものであるか、自分の目で見届けるのだと早苗は腹をくくった。

『夜分、恐れ入ります。
 アパレル第一部、並木です。
 部長、すみません、遅くに。
 お話したいことがございまして。
 ええ、はい……すみません……。
 シンガポール行きの件ですが……』

早苗は、直属の上司に転勤拒否の意思を伝えた。 






 
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