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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
『なんでだ。本人が言ったのか?』
『言わないよ。わかるんだ』
『当たり馬券を掴んだことない
お前のカンなんて信用できんな』
『はは、そうだ。
博打はそうだけど、
早苗の気持ちはわかるんだよ。
惚れた相手のことは、
言葉に出なくても聴こえるもんだよ』
『それをわかってて告白するんなら、
浩ちゃんの想いはホンモノってことだ。
俺に断り入れることじゃないよ』
渡瀬は背もたれの上に身を乗り出した。
『なぁ圭ちゃん。
俺が早苗に想いを伝えるってことは、
俺たちの均衡を崩すってことだ。
それが俺にはできなかったんだ。
でも麻衣ちゃんが現われたことで、
早苗は圭ちゃんをあきらめるだろ。
だからって
俺にチャンスがあるってもんじゃないが
少なくとも俺たちはバランスを保てる』
都合のいい理想論に、圭司は少し呆れて笑った。
『ツーペアってこと?
ポーカーじゃねぇよ。
あのな、早苗にしても麻衣ちゃんにしても、
人には気持ちってもんがある。
水をまいたみたいに
収まるトコに収まるってもんじゃない。
収まりがつかないから
泣いたり哀しんだりするんだよ』
『俺は収まるトコに収まると思ってる。
それが俺のとこかどうかはわからん。
でも、このままじゃ
俺の気持ちが収まらん。
麻衣ちゃんがここに現れたのは、
俺たちにとって変化の予兆だ。
俺はそれに賭けてみたいんだ』
賭けてみたい、と言ったときの渡瀬の目には並々ならぬ決意がみなぎっていた。
丸顔の、笑顔しか表情のないような男には似つかわしくない、精悍な、あるいは思い詰めたともとれる面持ちが、渡瀬の本気を感じさせた。
圭司は思った。
渡瀬は麻衣にも好意を寄せている。
その思いが膨らむ前に早苗に告白することで、身を固めようとしているのではないか。
そしてそれらの決着がついたとき、渡瀬がここから去っていくような、そんな気がしたのだった。