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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
圭司は荷造りの手をとめ、ベッドに座ってボストンバッグをポンと叩いた。
『なぁ浩ちゃん。
俺たち、もうじき三十だ。
そろそろ嫁さん欲しいよな』
『そうだな』
『麻衣ちゃんの料理うまかったもんなぁ』
『ああ、ホントにうまかった』
二人は小屋の壁に貼ったウォーホルのモンローを見やった。
『俺はさ、好きな写真とって、
それが仕事になって幸せ感じるんだけど、
好きなオンナができても、
親元に顔を出せる稼ぎがないんだよな』
『そうだな。俺たちは結局、
世の中に根をおろせてないんだ。
イラスト書きなんて、
この世に一番不必要だよ』
そう言って渡瀬が笑うと、圭司はため息をついた。
『浩ちゃんはたいしたもんだよ。
事務所かまえてしっかりやれてる。
早苗の親へも挨拶いけるよ』
『それは違うんだ。
俺は絵本が書きたいんだ。
¨絵本作家の嫁¨と暮らしたい。
今の仕事なんて、しがみついてるだけで
あれは言ってみりゃ嘘なんだよなぁ』
『ホント、何やってんだろうなぁ。
普通に就職してりゃ子供もいて、
運動会とか張り切ってんだろう?』
『だよなぁ……』
それから二人はしばらく黙ってモンローを見ていたが、脱衣所から早苗らのはしゃいだ笑い声が聞こえると、渡瀬は『どうなんだ?』と圭司に答えを急かせた。
『まぁ、早苗に言ってやれよ。
アイツも待ってるかもしれん。
高齢出産になる前にさ』
『悪いな。圭ちゃん』
『何に悪いんだよ』
圭司は笑った。