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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
三本ほどの缶を空けた圭司は、質のよい微酔を堪能していた。
酔いがまわってくるとだんだん気持ちが居座ってきて、たとえ短期間にせよ他の男と二股をかけた麻衣に腹が立ってきた。
――――(俺って、怒ってもいい立場だよなぁ)
そうだそうだと、まるでそれが効果的な復讐であるかのように心中で麻衣を罵ってみる。
浮気女め、中年男に舞い上がりやがって。
お前の目はふしあなだよ。
大きい魚を逃したんだぜ。
などと焚きつけてみたが、すべてを納得している胸のうちをいくらも荒立てることはできなかった。
『やっぱダメだわ。
酒がまずくなる』
酔うほどに、圭司の胸のうちで溶明と減衰を繰りかえす麻衣が、星空のカンバスに投影される。
圭司は、麻衣が自分のついた嘘を認めたときの辛そうな様子を思い出して、すまなかったな、と心中で謝罪した。
それは、自分と一緒にいることで麻衣に罪悪感が生じていたのを、麻衣が嘘をつくまでに気づいてやれなかったことに対してであった。
――――(同じものを見れてなかったんだなぁ……)
愛しあっているからといって、相手の苦悩を理解できていると考えるのは大きな間違いだった。
麻衣が抱えていた不能の真髄は麻衣本人にしかわからないものだった。
もしかすると麻衣は、自らの不能に巻き込んではいけないと、身を処す思いで去っていったのではないだろうかと、圭司は、しんから切なくなった。
確かに自分は真髄を知るという点において、麻衣と別れた今もまだ、麻衣の苦悩の本質を理解できたとは言いがたい。
だがそれでも、麻衣とともにした時間や感情は偽りではなかった。
麻衣が感じさせてくれた愛情も、麻衣を愛したことも。
自分たちの出会いには、きっとこの結末しかなかった。
二人の「希う心」が引き寄せた、必然の結末なのだ。
自分の役割は、あの迷子へと麻衣をつなぐことだった。
自分がどうしても埋めることができなかった麻衣の空白に、あの小さな迷子を導くことができた。
自分は、麻衣が幸福になるための力になろうとして、なれたのだ。
だから、これでいいのだと思う。