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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 
佐和は、大まかな素材選定をしておきたいと言い、

『デザイナーを交えて打ち合わせたいの。
 あさって、こっちに顔出してよ』

と用件を告げると、やけに手短かに電話を切った。

歓びのかたわらで圭司は、物事の歯車がかみ合って回転し、少しずつ前へ進んでいくのを感じた。
自分ひとりの力で物事は成しえない。
当然である。
その当然すぎる事実に、あらためて自分というひとりの人間にもたらされた、あらゆる人々との邂逅(かいこう)を思った。
それは裏を返せば、自分の行動や言葉が別のひとりに大きな影響を及ぼすということでもある。
逆もまた、真なのだ。


倉庫に帰り着いた圭司が駐車場で荷台を整理していると、物音に気づいた早苗が鉄扉から顔をのぞかせた。

『おかえり。
 あ、クルマ変わってる』

エプロン姿で無造作に微笑む早苗が、圭司にはなんだかとても懐かしく映った。

『おう、ただいま。
 きょうは休みか?』

早苗はうなずいて、機材で両手のふさがった圭司のために鉄扉を開いてやった。
圭司の帰宅を心の底から喜んだが、できるだけ表情に出さないよう心がけた。
彼は傷心の旅からの帰還なのだ。

圭司はリビングに荷物を置いて、麻衣の小屋の扉を開けた。
コロンの香りだけが残る空疎なたたずまいに麻衣の不在を確認して、納得を得たようにうんうんとうなずいた。

『出てっちゃったのね……』

背後から早苗が言った。
思ったより大きなショックを感じなかったのは、早苗がいてくれるからだと圭司は思った。

『うん、行っちゃったよ』

『さみしくなるわ』

『そうだな』

荷物のなくなった小屋の扉を閉めると乾いた音がした。
圭司は、一遍の小説を読み終えたような満足感をおぼえ、ふぅ、と短い息を吐いた。
麻衣の行為を否定せず、何気ないふうを装ってくれる早苗にありがたみを感じた。



 
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