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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 
ソファに腰をおろした圭司の肩に、後ろから早苗がそっと手を添えた。
圭司はその手の上に自分の手を重ねて、

『そんなに気を使わなくていいぞ』

と微笑んだ。

『ねぇ圭ちゃん。
 ここに居させてって言ったら、
 居させてくれる?』

圭司は、言葉の意味を確かめるように背後の早苗を見上げた。

『行くんだろ? シンガポール』

早苗は首を振り、凛として『行かない』と言った。
強い覚悟がたたえられていそうな早苗の真剣な眼差しに、圭司は、なぜ? と訊くのをやめた。
言わずもがなのことを訊かずとも、早苗の気持ちはわかっている。

『ずっと居てくれ』

他に言葉がなかっただけではなく、それは紛れもなく圭司の本心から出た言葉であった。
早苗は柳眉をゆるめ、少女のように口元をほころばせると、

『ありがと』

と言って、キッチンへ行った。
そのうしろ姿を見つめながら、圭司は、早苗を追って握ったドアノブの冷たい感触を手のひらに思い出した。
あの日に感じた隔たりを滑稽に思えるほど、いま自分たちは、男と女として向きあうことに何の躊躇もいらない間柄になった。
そういう思いで眺めた早苗の姿は、圭司に奇妙な居心地の良さをもたらした。

昼食を飛ばしていた二人は、夕刻、早めの食卓についた。
早苗の作ったカレーは、うまくできていた。
つけあわせのポテトサラダも、圭司の好みの塩加減だった。
これまで気の向いたときにしか作ってくれなかったが、作るたびに巧くなっていく。
そのことを圭司が言うと、早苗は真っ赤になって照れてしまい、コツは箱の裏に書いてあるのをよく読むことだと笑った。


 
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