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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
早苗は、自分は料理をすることが案外きらいではないかもしれないと言い、駅前のガス器具販売店で無料の料理教室をやっていて、実はそれに今朝申し込んできたのだと、恥ずかしそうに首をかたむけた。
そのときにもらった、たくさん機能がついた最新型ガスコンロのカタログを圭司に見せた。
自分のような未熟者は機械に助けてもらうのがいいかもしれないと、大まじめにコンロの買い替えを検討している早苗が、なぜか圭司には切なかった。
だが、受け取ったカタログのページをめくりながら、そこに書いてある機能や料理の写真を見ているうちに、圭司は、小さな希望が胸のうちに湧いてくるのを感じた。
『へぇ、こんなご馳走ができるんだ。
よし、俺も半分出すぞ』
圭司が出資を約束すると、早苗は華が咲くように笑った。
その笑顔もまた、圭司を胸苦しくさせた。
食事を終え、二人で後片づけをした。
ひじまで袖をまくり、カレーがこびりついた鍋洗いに苦戦する圭司に、洗い終えた食器をタオルで拭きながら早苗が言った。
『あたし明日まで休暇なの。
ねぇ、浩ちゃんのお見舞い、
一緒に行かない?』
『いいよ、俺も明日オフなんだ。
あ! そうだ、早苗聞いてくれよ。
さっき佐和ちゃんから連絡あってさ、
俺の作品集いけそうなんだ。
浩ちゃんにも報告しとかないと』
すごい! と、早苗は手をたたいて喜んだ。
それが多少大げさすぎたのは、個展の会場提供の件で佐和とやり取りした際、写真集の発刊予定をすでに佐和から聴かされていたからだった。
けれども早苗は、吉報を圭司の口から聴きたくて、自分は知らないことにしておいてくれと、佐和とのあいだで口裏を合わせていたのだった。
『すごいね。
圭ちゃんの夢が叶うのね』
『ああ、嬉しいよ。
みんなのおかげなんだ。
特に早苗には感謝してるよ。
あのとき呼んでくれてなかったら、
なかった話だ』
ありがとう、と他人行儀に礼をする圭司に、早苗は、どういたしまして、と頭を下げ、二人で微笑みあった。