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星と僕たちのあいだに
第11章 夏の終わりに
 
暑さにあたった乙女のように、くらくらと消え入りそうな早苗の腰を抱き寄せた圭司は、弓にしなっていく早苗のうなじを手のひらでうけとめた。
真正面に向きあう早苗は、圭司が心のなかで自分勝手に創りあげた早苗ではなかった。
途轍もなく美しい、生身の温かい女だった。

『ずっと居てくれよ』

かしげた早苗の顔に圭司がそっと顔を寄せ、二人は、くちびるを触れあわせた。

早苗の手からタオルが離れ、ふたりの足元にふわりと落ちた。
圭司のぬくもりと唇の感触に体中をすきまなく埋め尽くされ、眠気にたゆたうような揺らぎが早苗に訪れた。

待ち望んだ抱擁。
これで死んでもいいと思えるキス。
愛してやまない男。
恍惚の中、早苗は気を遠くしていく。
圭司の腕に閉じこもる自分が、小さく愛らしいものになっていくような気がした。
命が尽きるとき、この腕の中にいたいと思った。

唇をあわせたまま、やがて早苗は、めまいの海にゆっくりと身をゆだねた。
静寂の深い紺青(こんじょう)の中に小さな鬼火がいくつも揺れる。
微笑みかけるとひとつ、またひとつと消えてゆく。

あたしは、人をたくさん恨んだ。自分を憎んだ。
だけど、あたしをいたぶったもの、苦しませたものみんな、みんな許そう。
望むんじゃなく、望みにたどりつける人間になろう。
そしてこの人を、必ず、幸せにするんだ――――。

そう心に誓ったとき、早苗は、これまでの孤独が一瞬でいやされたことを感じた。
そして唐突に、子供を産みたいと思った。

ハスの葉にすべる朝露のように、早苗の目じりからつたい落ちた涙は、頬をくるんだ圭司の長い指先にぬぐわれた。
圭司の腕にひきしぼられた早苗は、あてがった手のひらを圭司のうなじへと昇らせる。
夕陽の残照に浮かぶ二人は光暈(こううん)にとりまかれ、写真立てにおさまったかのように、長い間、重ねたくちびるを離さなかった。





 
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