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星と僕たちのあいだに
第2章 優しい場所
渡瀬が出ていったあと、ため息とともに圭司の肩から力が抜けた。
早苗の心情について思いこみに近い見当をつけておきながら、律儀に告白宣言をしにきた渡瀬にかなわないものを感じた。
『高齢出産か……』
圭司はつぶやいて、ふと、麻衣がつき合っていた男の気持ちを考えた。
愛する女が自分の子供を産めないと判ったときの失望。
これは麻衣への失望ではなく、麻衣との将来に失意したのだろう。
男の描いた未来像に、麻衣は適さなかったのだ。
言いかえれば、その男は、子供を宿せる女でなければ愛の対象とならないわけで、産む、がまずあり、その条件で愛を見定めることになる。
子供というファクター無しに幸福を構築できないとするなら、その男にとって伴侶の妊娠は絶対にゆずれない条件なのだ。
自分ならどうするだろう?
何をもって幸福とするか。
何によって幸福を確かめるか。
そもそも幸福とはいったい何だろうか。
女性を、子を産む機械と発言した政治家が過去にいたが、本当にそうなのであれば、そこに生を得た赤ん坊は機械が造った製品ということか。
それはおよそ人ではないような気がする。
政治家風に言えば、生殖機能の無い麻衣という機械は、使えないポンコツということになる。
会ったこともない人間をけなすのはいけないのだろうが、この政治家の考え方は、切れば血が出るようなものだとは思えない。
麻衣を捨てた男の発想の根本にも、同じものがあると思えてならない。
男は本当に、単純に、子種を得たいがためだけに毎日セックスしたのか。
快楽は求めなかったのか。
性行為に没頭したとき、男は、あえぐ麻衣の姿を見ながら、生まれくる子の笑顔を思い浮かべたとでもいうのだろうか。
そんな風に女を抱けるものだろうか。
少なくとも自分はそうではない。
人間のセックスは男女愛の必定だ。
しかしそれは、愛の形態のひとつではあるがすべてではない。
妊娠は愛の結果であって、それが男女愛のすべてではない。
はらめ、はらめと家畜の種付けではあるまいし、快楽だけが目的だったと居直るほうが、そいつは男としてまだ潔(いさぎよ)いだろう。
なにより、麻衣が救われる。
『いやしてやらないとなぁ……』
圭司は思いを口にして、麻衣をここへ導いた自分の責任をいっそう実感した。
傷ついた麻衣を癒(いや)してやらなければ――――。