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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
高速に乗ってすぐ、睡魔が麻衣をおそった。
とろりとろりと、まぶたの上げ下げが緩慢になっていく。
圭司がラジオのボリュームをそっと下げると、程なくして、くぅくぅと寝息が聞こえはじめた。
ラジオを切って耳を澄ましてみる。
心地よさそうな麻衣の寝息に、圭司の心は凪(な)いだ。
麻衣の首はかたむいて肩にあずけられ、横顔をおおった柔らかそうな髪のあわいに、まったく無力に閉ざした唇が数本の毛先をまといつかせている。
おなかの上で組まれていた指が音もなくほどけ、肩にかけたショールから腕がこぼれた。
内側をさらした真っ白の腕には、ガラス鉢に揺れる色麺の涼やかさで血管が透けている。
圭司はすこし欲情した。
手を伸ばし、はだけた麻衣のショールをそっと掛けなおす。
――――(一夜限りの相手じゃない)
いやらしい想像をかき消して、またも責任というおもしを心に据えなおした。
左手に南アルプスをのぞむルートで八ヶ岳が見えた頃、目線のななめ上まであがった太陽が車内を明るくした。
麻衣の寝顔に陽がさした。
陽光をうけた頬のうぶ毛が黄金(こがね)色に縁取られ、神々しく輝いている。
――――(かっわいいよなぁ)
助手席に天使を乗せているのだと圭司は思った。
日射しに眼をこすった麻衣が、何度か速いまばたきをしたあと、シートから跳ねるように飛び起きた。
『す、すみません
寝てしまいました』
『全然かまわないよ、
早起きしたんだから。
それよりほら、いい眺め』
『わっ、きれい』
麻衣は南アルプスの雄大なさまに眼を奪われ、思わず窓に顔を寄せて、
『きてよかった』
とつぶやいた。