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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
山間部の公園施設に到着すると、競技場では地元チームの試合がすでに始まっていて、歓声とレフェリーのホイッスルが駐車場まで聞こえていた。
圭司と麻衣は運営本部に顔をだし、今回圭司を公認してくれた地元サッカー協会幹部に挨拶したあと、大会のオフィシャルヤッケを羽織って撮影準備を急いだ。
圭司は片ヒザをついてケースの留め金をはじき、大きな花瓶ほどもある望遠レンズをゴソッと取り出して、愛機にガチンと仕込んだ。
クルクルと一脚をねじ込みながら、試合の様子を遠くに睨む。
迷いのない手際の良さは、戦争映画の熟練スナイパーのようである。
写真家という呼び名に圭司の本質が追いついて、ぴたりと重なった瞬間、麻衣の胸は少しうずいた。
プロフェッショナルと呼ばれる者だけに許されるであろう、圭司の鋭い目つきが、とても素敵で魅力的にうつる。
麻衣は、自分もいつかまた没頭できる何かを手にし、彼のような表情を持てる人間になりたいと思った。
焦点距離の異なる二台のカメラを武器のようにたずさえ、圭司は撮影ポイントを頻繁に変える。
そのうしろを、幼稚園児のように機材ケースをタスキがけした麻衣がついて回ったが、圭司は麻衣の存在を忘れてシャッターを切り続けた。
こうしたイベント撮影は圭司の重要な収入源であった。
ここで撮った写真を、¨シライシ・フォト・ワークス¨という屋号で開設したホームページにアップロードして、ネット註文してもらうのである。
まんべんなく多くの選手を撮るのがコツで、ワンカットでふたつの註文をとれる、対戦相手と絡んだ場面が好ましい。
そういったイベント撮影の基本をおさえながら、ファインダーの中に一瞬で構図を計算し、動きを予測して決定的瞬間を切りとっていく。
近年カメラの性能が良くなって、素人でもそれなりに撮れるようになったとはいえ、圭司らプロにはまったく及ばない。
プロがおさえる以上、当然そのレベルは面目躍如(めんもくやくじょ)たるものがあり、素人写真とはひと味もふた味も違うサンプル画像に魅せられた参加者から、イベントごとに毎回一定の注文が寄せられるのである。