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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
風呂あがりのビールを日課とする圭司だが、今夜は我慢することにした。
夜中に尿意をもよおせば、トイレへ行くのに襖をあけ、麻衣の眠る八畳間を横切ることになる。
そのたびに、麻衣の眠りをやぶるようなことはしたくない。
出会って三日目の男が襖一枚へだてた隣にいるというだけで、麻衣に緊張を強(し)いることになるはずだ。
ならばさっさと寝込んで、こちらのいびきでも聞かせてやったほうが、彼女は少しでも安心して休めるだろう……。
圭司がトイレから戻ると、窓際でヒザをくずした麻衣が星空を眺めていた。
長湯のせいで麻衣の小さな足の裏はベンガラを塗ったように朱く、それが圭司には古畳の上に横たわった小さな赤クラゲのように艶(なま)めいて見えた。
圭司も麻衣の隣で腰窓の木枠に手をかけ、ふたりで星を眺めた。
ひんやりとした風が葉ずれの音を聞かせる。
いい夜だな、と圭司は心底から思った。
立ち上がった麻衣が蛍光灯のひもを引いた。
部屋が暗くなったとたん星空は明るさを増し、ひとつひとつ、星が色の違いを見せはじめる。
『さっきは判らなかったけど、
微妙に色が違うんですね』
『そうだよ。
星の色は温度で変わるんだ。
白くなるほど熱いんだよ』
『赤いほうが熱そうなのに……』
腰窓に手をかけ、そらせた首をかしげて夜空を覗きこむ麻衣の姿が、圭司の視野の端にうつる。
暗闇のなかで、とりわけ青い月に照らされる首すじの白さを、月明かりが無言で圭司に教えている。
見上げた無数の星々の、その中のひとつは麻衣だ。
圭司は渡瀬にならい、詩的な情調にひたりながら、麻衣は美しい、と胸のうちでつぶやいた。
麻衣は星空に向かって手を伸ばした。
そうしてさっきと同じように星を払い、
首をかしげ、『さわれそうなのに』と言って、
そしてまた、星空を払った。
とっさに、圭司はその手をとりかけて、やめた。
かたく閉じたまぶたの裏に、抱きすくめた麻衣が浮かぶ。
つかんでいた窓枠がギッと音をたてた。
抱きしめたい……。