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星と僕たちのあいだに
第3章 星のすぐそばに
麻衣は息をのみ、吸ったものが出てこないように口を手でおさえた。
――――(こんなに近くにいるのに……)
口をついて飛びだしてきそうな想いを胸のうちでつぶやいて、下くちびるを噛んだ。
こらえていた涙が、ひとすじ頬をつたう。
ツンとひとつ、鼻をすすった麻衣に圭司が気づいた。
『あ、麻衣ちゃん。
起きて……たんだ……』
圭司の笑顔は消えた。
となりの暗い窓際にみえる麻衣が、切なく上げた眉根に今にもすぐ壊れてしまいそうなものをにじませている。
『麻衣ちゃん……』
麻衣は、すがるように言葉をしぼりだした。
『圭司さん、
そっちに行って……
いいですか……』
圭司は窓側の襖をそっとひき、弱々しく腰窓へ寄りかかる麻衣に手を伸ばした。
『いいよ、おいで』
小さな、かすれた声だった。
ふるえる麻衣の手が圭司に伸びる。
その指先をとった圭司はグイと麻衣を引き寄せ、両腕にしっかりと抱いた。
しがみつくようにして圭司の胸に顔をしずめる麻衣は、泣き声をかみ殺していた。
『この半年間、
麻衣ちゃん頑張ったもんね。
えらかったよ』
腕に抱いた麻衣の髪をなでた。
無念、屈辱、絶望、さまざまな思いと戦い、くじけかけている麻衣の情念が圭司の内へ流入する。
麻衣への哀れみをこえる感情のほとばしりが、圭司の口をついて吐き出された。
『俺、麻衣ちゃんが好きだ』
麻衣の身体が熱くなった。
浴衣を透したその熱を圭司はしっかりと感じた。
『好きなんだ。
俺と、いてほしい。
麻衣ちゃんといたいんだ』
圭司の腕の中でうなずいて、麻衣は、『はい』と、小さな声をうわずらせた。
そして顔をあげ、
『わたしも……
圭司さんが
好きです……』
と言った。
圭司は麻衣の頬にそっと手をあてがった。
少し顔を近づけると、麻衣は目を閉じた。
ふたつの影がゆっくりとひとつになり、ふたりは唇をつないだ。
そこには道徳も約束事もなく、圭司はただ無心であった。
無心の中に、麻衣のくちびるの¨色¨を感じた。
影ひとつない無の中に小さな紅がひとつ浮かぶ。
それは麻衣という有となり、思考によって圭司の中に女性のカタチを得た。