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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
『どうも、ありがとうございました。
近いうちにこちらへ写真をお持ちします』
あまり長くなってはいけないと、ほどほどに切り上げて圭司は丁寧に頭を下げた。
『急いで持ってきてもらわないと、
あの世に行ってるかも』
彼女が口にした¨遺影¨という言葉が、とたんに現実味をおびる。
『そんな、縁起でもない……』
『ふふ、冗談よ。
白石さんみたいな男前に撮ってもらって、
年甲斐もなく興奮したわ。
こちらこそありがとう』
丁重に礼をいうと、年配女性と看護師は病棟へ帰っていった。
圭司は去っていく二人のうしろ姿を見つめながら、いい笑顔ができるものだなぁと、不思議な気持ちになった。
年配女性に哀しいことが待ち受けているようには見えなかった。
もはや病との戦いに見切りをつけた彼女は、樫の巨木との対話で死の絶望ともうまく折りあいをつけたのだろうか。
それとも、間近に死をひかえることによって、覚悟を決めた彼女にしか感じることのできない美しさを、この世に見ているのだろうか……。
そんなふうに圭司は考えたが、いずれにせよ一種独特の安寧(あんねい)のようなものを年配女性に感じ、それに惹かれて自分が声をかけたことは確かだと思った。
午後からの撮影準備のため、車に戻った圭司は、あっ、と声をあげた。
年配女性の名前を聞いていなかったのだ。
写真を届けようにも、名前がわからなければ面会もできない。
病棟へ引き返そうとしたとき、付き添っていた看護師の名札を思い出した。
『たしか、篠原、だったよな』
総合受付で篠原麻衣をあたれば、あの女性にたどりつけるだろう、と圭司は二人を追うのをあきらめた。