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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 
介護施設の撮影から五日後、撮影データをおさめたCDとともに、圭司は発注元のデザイン事務所へ出向いた。
専門学生時代の仲間がウェブデザイナーとして籍をおいているデザイン事務所で、仲間の伝手(つて)で数年前から仕事をまわしてもらっている。

圭司は宅配サービスを使わず、みずから出向くことが多い。
直接顔を見せ、差し向かいで発注元との信頼関係を太くしていくのは、圭司なりの営業努力でもあったが、そうして人間関係を築くことが彼の流儀でもあった。
業界の右も左もわからない頃から彼はそうしてきた。
わからなければ自分のやりかたを通すのが、フリーランスの処世術である。

圭司のようなフリーランスの多くは社会的な後ろ盾を持たない。
一般の会社員のように、勤めている会社の看板や名刺に書かれた肩書きがビジネスの武器になることはない。
社会的信用の低いフリーランスが身を立てるには、ひとえに個人の才能と人がらが重要で、金銭、人脈、信用は自前で創造していくものである。


介護施設の写真素材をデザイナーとチェックし、営業マンと来月の予定を打ち合わせたあと、なれ親しいコピーライターからいつものように呑みの誘いをうけたが、その日、別の約束があった圭司は、『今日だけは』と両手を合わせて丁重に断り、事務所から出た。

駅前にそびえたつ老舗百貨店の足元に着いた頃、雨がぱらつきだした。
高層ビルにくまどられた都会のちいさな空は、どんよりと重苦しい。
雨宿りには少々心もとない、ショーウィンドーの短いひさしの下で、渡瀬浩二と並木早苗が来るのを待った。

この日、仕事終わりに待ち合わせていた三人は、並木早苗のなじみの店で圭司の誕生日を祝うことになっていた。



 
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