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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
画面に映るモンペ姿の老婆を見つめて、麻衣はゆっくりうなずいた。
ニンジンの土を払う老婆のしわくちゃの手。
色濃いモノクロ写真に切りとられた世界が、今にも動き出しそうな鮮烈なリアリティをもって麻衣に迫る。
麻衣は、老人たちがこの現実を生きてきたという、ただそれだけで立派な気がした。
しわだらけの手や乾いた皮膚は、使い込まれた武器のように強そうで、そしてまた、やさしく美しいものに感じられた。
「苦労はするさ、つらいもんだ。
だから、生きられるのさ」
麻衣の胸のうちで、写真の老婆がそう語りかけた。
もしかすると、不妊でなければ気づけないことがあるのではないだろうか。
だとしたら私の幸福の在りかは、人とは少し違うところにあるのだ。
そこに私だけの、私に用意された幸福があるのかもしれない。
生きるって、宝探しなのかな――――。
自分の力ではどうにも解消できない問題も、私だけの幸福も、それらはすべて現実の中に存在していて、私は現実を生きている。
写真のお婆さんのように、私は私の現実を生きなければ、しっかり眼をあけて生きなければ、私の幸福の在りかは見つからない。
麻衣は、胸に湯を注がれるような熱さを感じた。
それが心の底で固まっていた、煮こごりのようなものを溶かしていくような気がした。
圭司が麻衣を抱き寄せた。
『幸せにはいろんな種類があるよ。
俺は今日ひとつ見つけた。
麻衣にも見つかるといいな。
麻衣にできないのは、
子供を産むことだけなんだ』
無数の選択肢のひとつ、そのひとつが消えたのは哀しいこと。
だが選択肢は無数にある。
肩越しにやさしく微笑む圭司の言葉が、麻衣にはそう聞こえた。