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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
―――― 翌朝
廊下の足音に気づいて圭司が目をあけた。
シャンプーの甘い匂いが、かんばしく漂っている。
首筋から腰にかけて気だるく、下腹には鈍痛があった。
背中からくるむようにして麻衣を抱く圭司の手のひらには、麻衣の乳房が収まっていた。
自然光のもとで見る乳房の白さに驚き、薄皮の裏側にあわく透ける血管に眼を奪われた。
薄桃色の乳首をつまんで、くにくにともてあそんでみる。
儚げで傷つきやすそうな触感が圭司を切なくさせた。
星空はあとかたもなく消え、ガラス窓は一面に薄紙をはりつけたように青白く無表情だった。
朝がもたらす疑いようのない現実感に嫌気が起きて、圭司は短い吐息をついた。
手の中の乳房の感触だけが、麻衣との情交を夢ではなかったと裏づける数少ない手がかりのように思え、ゆうべのことを確かめるように乳房をゆるく揉んだ。
くにゃりくにゃりとあやふやに形を変えながら、常に手のひらを満たす肉のつかみごたえは、獲得の実感と新しい人間関係の重量感を思わせた。
圭司は四畳間のあまりのせまさに息づまりをおぼえ、手を伸ばして襖をひきあけた。
隣の八畳間には麻衣が寝るはずだった蒲団が敷いてある。
――――(ホントならあそこに寝てたんだよなぁ)
すんなり寝床に入れず、すがる思いで窓をあけたのだろう。
誰かに身を預けざるをえないほど、縮んでいたであろう昨夜の麻衣の気持ちを思うと、懐で眠る麻衣がいじらしくなった。
しんと静まった古い和室に、麻衣の寝息だけがかすかに聞こえている。
羽毛がそよぐような、おだやかな寝息であった。
圭司が麻衣をのぞきこんだ。
ゆるく、ほんの少し唇が開いた、飾り気のない無防備な寝顔。
涙堂にかぶる長いまつ毛と、紅をひとハケはらったような桃色の頬が、圭司の男の根源にグッと爪を立てた。
やけに大きな古めかしい床の間のデジタル時計が、朝食までの時間を圭司に計算させた。
はじき出された三十分という時間の余裕は、淫欲の帯をほどくのに充分であった。
圭司は乳房をもてあそんでいた手に力をこめた。