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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 
早朝の静かな和室に、荒い呼吸と布ずれの音が響く。
抑えきれぬ思いを抱えたふたつの肉体が、烈しくこすれあう。
肉づきのよい麻衣の尻は、徐々に速まる圭司の突きを柔らかく飲みこみ、次を催促するようにそのつど弾んで揺れる。
それらの光景は、圭司にとって充分にエロティックであったが、のどかな古宿のすがすがしい朝と、そこでなされる行為の不つりあいそのものに、圭司はエロスを感じていた。

それがあだとなった。

麻衣をよろこばそうと腰の動きに技巧を凝らした圭司は、不覚にも麻衣より先に自分の快感の角度を探し当ててしまい、あまり時間をかけず到達してしまった。
頂上に近づきつつあった麻衣は、突如動きの止まった圭司を求めて尻をよじらせたが、ぬるりと抜けていった圭司は戻ってこなかった。

圭司のカタチで下腹にさみしさが残る。
麻衣はたまらず、身をすくめて足の指をギュッとたたみ、圭司に気づかれぬよう『ぅんっ』と小さくいきんだ。
 
あっけなく崩れ落ちた圭司は、詫びるように麻衣の肩やうなじに丁寧なくちづけをしてまわった。
それが麻衣をくすぐったがらせたが、寵愛(ちょうあい)を受ける女にしか味わえない行為後の小さなイベントは麻衣の心を穏やかにした。

『ゆうべは、どうも。
 少しは眠れた?』

『はい、少し眠れました。
 圭司さんは?』

『いつ眠ったのか、全然……。
 なぁ麻衣。
 きのう俺、しつこかったかな?』

こらえきれず、麻衣はクスクス笑いだした。
あんなに好き放題しておいて、朝になって頭をかいている圭司をかわいい男だなと思ったのだ。

圭司に向き直るとギュッと目を閉じて

『すっ……っごく』

と、にっこり笑い、『目覚ましのは意地悪ですか?』と愛らしい嫌味を言ったあと、また笑った。

『あ、ごめん』

紅顔する圭司にしがみつき、麻衣は胸が苦しくなるほどの喜びをかみしめた。

――――(いいの、幸せだもの。いいよ)

身も心を投げ出してひとつになった夜を越え、古宿でむかえた青白い朝。
ふたりは、愛情を仮託すべき存在として互いを心に刻みあった。


 
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