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星と僕たちのあいだに
第1章 雨、出逢い
 
それぞれに仕事をもつ同い年の三人は、港湾地区の古い倉庫を改造した住居兼作業場で同居していて、互いを養うでもなく助けあい、干渉しすぎることのない絶妙な距離感で暮らしている。

十年来の付き合いである渡瀬浩二は、イラストレーターとして都内に個人事務所を構えるまでになったが、元々は絵本作家を目指していた。
美術系の専門学校で写真家志望の圭司と出会い、意気投合した。

並木早苗は、大手商社に勤めるキャリアウーマンで、入社して間なしに社内の男と不倫関係におちいり、三年近くつきあったところで相手の妻が妊娠し、それを機に不倫関係を解消した。
高校時代の同級生だった渡瀬との再会がきっかけで、一年前に男所帯へ転がりこんだ。
今日にいたるまで、三人に男女の関係はない。


たそがれどきに降りだした雨は、毛糸ほどの太さになって地面を叩くようになり、またたく間に舗道を染めた。
ところどころに水たまりができ、それへ映りこむネオンサインが何色ともつかない無数の雨の輪を描く。
渋滞しはじめた車道の路肩には、幾筋もの小さなせせらぎが姿をあらわした。

少し遅れるので先に行け、と渡瀬からメールが入り、そのあとすぐ、並木早苗から今向かっていると着信があった。

『うぅ、冷えてきたなぁ』

十一月の冷たい雨に地団太を踏みながら、濡れたジーンズのすそから視線を上げたとき、通りの向こうに真っ赤な高級外車が停まった。
灰色の街を背景にして、ひときわ明るい色彩を放つ高級車が雨ににじむ。

『いいねぇ……』

高級車の広告に使えそうなその構図は、瞬時に圭司の頭の中で何枚かの写真となった。
一種の職業病である。

ふいに外車のハザードランプが点滅し、車道側のドアから女がおりた。
車からおりた女をその場に残し、高級外車は唸りをあげて行ってしまった。
残された女はバッグの肩ヒモを握りしめ、うつむいたまま雨の叩くにまかせて車道に立ち尽くしている。

圭司はその女に見覚えがあった。

『あ。あのこ
 たしか篠原……』

五日前、樫の樹の下で撮影した、篠原麻衣だった。



 
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