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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
機材ケースをかついだ圭司が自分の小屋へ戻ると、すぐに渡瀬が来た。
『で、どうだった?』
ふたりは同時に同じことを言ったあと、顔をそむけあって笑いをこらえた。
『圭ちゃんが先に言えよ』
『俺は麻衣とデキちまった。
浩ちゃんは?』
『俺は、脈を得た、
というところだな』
『お、良かったじゃん。
っていうか、なんだそれ?』
『俺の思った通りだった。
早苗はデパートの前で、
麻衣ちゃんを連れたお前を見て、
ピンときたらしい』
『へぇ、先見の明だな』
『女のカンだよ』
『ああ、そう言うのか』
圭司は旅館でのことをかいつまんで話した。
『わぁ、いい夜だったんだなぁ。
星空の下でかぁ』
『ロマンチックではあったな。
お前は? 脈を得たって』
『それが、微妙なんだ……』
渡瀬は床のほこりが舞うほどのため息をついて、肩を落とした。
『どうも前の不倫野郎が、
早苗と距離を詰めてるみたいで、
アイツ揺さぶられてるようなんだ』
『そうかぁ。
本気でホレあってたんだなぁ』
『そういう問題かよ』
吐き捨てるように渡瀬は言った。
実直な浩ちゃんにはわからんだろうが、と言おうとして、圭司はその言葉をすんでの所で飲みこんだ。
圭司には喪失の苦しみを断ち切るのに時間がかかった一年前の失恋があった。
色恋の機微はその当事者にしか理解できないものがある。
失恋のつらさは圭司だけのものだった。
もし早苗の恋心に触れることができる者があるとすれば、それは早苗が愛した男だけだということが、圭司にはわかる。
圭司はなるべく感情を顔に出さないよう、一般論だが、と前置きして、
『忘れられないもんだよ。
カラダなのか、心なのか、
それはわからんけど。
なにか、こびりついてんだろうな。
きっと』
と渡瀬をなぐさめた。