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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 

『不倫野郎の目当ては、
 早苗のカラダだ。
 そんな奴のどこがいいんだ』

『案外そうじゃないのかもな。
 でなきゃ早苗も揺れないだろ。
 この世でいちばん潔くなれないのが
 愛ってやつだ』

不倫相手への掻きむしりたくなるような早苗の想いを、圭司は、それとなく察してやれる。
もう戻ってはこない愛情への執着や、それへ費やした時間への後悔や恨みは、相手が妻帯者であるがゆえ、罪悪感やうしろめたさも加味された複雑なものになる。

こういった感覚は、論理的で善良な渡瀬に伝えきれるものではない。
説明する言葉を自分は持っていないと思いながらも、圭司は慎重に言葉を選んだ。

『なんていうか、
 うまく言えないんだけどさ、
 良識の外側にも人の想いはあるんだ。
 俺はバカだから、
 うまく言葉にできないんだけど』

『それは、わかる』

『わかるなよ。
 謙遜(けんそん)したんだよ』

『はは、そうじゃないよ。
 バカってとこじゃない。
 良識の外側ってとこだよ。
 俺、ゆうべ早苗を抱いたんだ』

『は?』

一瞬圭司に早苗を憎悪する気持ちがわいた。
不倫相手への未練を渡瀬にさとらせておきながら、自分を抱かせるような媚態(びたい)をとり、ちょうどよい間に合わせに渡瀬を利用したように思えたからである。
だが、圭司の懸念は、渡瀬の言葉ですぐに払拭(ふっしょく)された。

『早苗を抱いたとき、
 俺も同じようなこと思ったんだ。
 どうにもできないんだろうな、って。
 だから、ふしだらな女とは思えなかった。

 じっさいのところ、
 俺への気持ちがあるわけじゃないんだ。
 なのに、俺にカラダひらいたんだ。
 自分からそうしといて、
 抱かれてるあいだ、アイツ涙ぐんでるんだ。
 俺、たまらなかったよ。
 もっと早くそうしてやれば良かったと思う』

『それ、ゴーカンとかじゃないよな』

断じて違う、と渡瀬は首をふる。



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