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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 
『ゆうべ、俺も早苗も真摯だった。
 それは間違いないよ。
 本気で求めあったと思う。
 だけど、圭ちゃんのいう
 その良識の外側の想いを
 どうにも始末できないってとこもあるんだろう。
 早苗はそこを行ったりきたりしてる。
 そんなふうに感じたなぁ。

 俺たちはそばにいたのに、
 アイツのつらさを見過ごしてたんだ。
 不倫野郎は許せないが、
 俺、早苗を幸せにしてやりたいって思った。
 前より好きになったかもしれない』

渡瀬の眼はうるんでいた。
圭司は男の感傷的な涙が苦手で、ときにはイラ立ちすらおぼえてしまうことがあるが、不覚にも落涙(らくるい)しそうになった。
渡瀬の持つ男の純心にどうしようもなく共感できたのは、自分もゆうべ同じようなことを思ったからだった。

渡瀬は、一語一語、自分に言い聞かせるように続けた。

『俺じゃ
 足んないかもしれないけど、
 ホントはその役は、
 圭ちゃんだったかもしれないけど、
 俺は、早苗を待とうと思う』

圭司は、こいつは本気で早苗が好きなのだな、と思った。
そして、心根のやさしい渡瀬なら早苗を幸せにしてやれるだろう、とも思った。

『なに言ってんだよ、浩ちゃん。
 俺に早苗はムリだって。
 それに、
 浩ちゃんがイイ男だってのは、
 早苗も気づいてるさ。
 俺も太鼓判おすね』

圭司は渡瀬の肩をポンと叩き、壁のモンローを見つめた。
ウォーホルが世に送りだした極彩色の女は、その素性を隠すようにも見え、それが本性のようにも見える。
あでやかでもあり、醜くもある。
思いだしたように渡瀬がフッと笑った。

『早苗、いい女だったよ』

『だろうなぁ』

『俺、たぶん、狂ったと思う』

我を忘れて早苗をむさぼったであろう渡瀬の、自分自身をさげすむような言いかたが、激しいセックスを圭司に生々しく想像させた。

『そりゃモデルクラスの女だ。
 男ならみんなそうなるよ』

『秒殺されたんだ』

自信に満ちた快活ともいえる渡瀬の口ぶりがおかしくて、圭司は拳を噛むようにして忍び笑いを洩らした。
興味本位で『何回?』と訊くと、渡瀬は圭司の前に手のひらをパッと広げた。
それを見て圭司はのけぞった。

『そ、そりゃすごい』

六度目を断られたんだと渡瀬は言った。



 
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