この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
笑顔一辺倒の、丸顔の心根のやさしい男が、ひと晩に五度も女にかぶさっていくのだから、人は見かけによらないものだと圭司は思った。
『だから、あの不倫野郎、
よけいに許せないんだよ。
妻子があって、
まだ早苗を自由にしようとしてやがる』
『まぁそうだな。
妻子があるってのはダメだな。
でも、揺れてるだけで、
ヨリ戻したってわけじゃないんだろ?』
『今のところは、
早苗のプライドが盾になってるようなんだ。
時間の問題かもしれんが』
『それにしても、今は浩ちゃんが
早苗の彼氏ってことだろ?』
そういう約束はしていない、と渡瀬は首をふった。
カラダを許されはしたが、気持ちが中途ハンパな早苗を恋人として扱えば、早苗の心の負担になる。
そうはしたくないのだと言った。
『早苗を待つ』のが、今の渡瀬にできる最大の愛情表現なのだ。
おそらく早苗はそれが嬉しかったに違いない。
ふたりでカレーをつくったのは、時間をかけて渡瀬への愛情を育てようという、早苗なりの回答なのだろうと、圭司は合点がいった。
自分のスペックに唯一欠ける家庭的という項目に、早苗はあえて挑んだのだ。
『そうか、
で、仲良くカレー作ったんだな』
『カレーは早苗が言いだしたんだ。
ちょっとは自分もできるようになりたいって。
一緒に買いもの行ったんだけどさ、
あいつ、なに買っていいのかわからないんだよ。
で、売り場で見ず知らずのオバサンに
カレーの材料聞いてさ』
『へぇ、頑張ったんだなぁ』
『けなげっていうか、前向きっていうか。
スーパーの野菜売り場で、
恥かきながら一生けんめいメモってさ。
それ見てると泣けてくるんだよ。
だから、作り方は俺が調べて
レシピ書いたんだ』
渡瀬は折りたたんだ紙をポケットから出した。
プロイラストレーターがささっとサインペンで描いたレシピは良くできていて、色を付けていくつかまとめれば、立派な料理本にできるじゃないかと圭司は言った。