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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 
笑顔一辺倒の、丸顔の心根のやさしい男が、ひと晩に五度も女にかぶさっていくのだから、人は見かけによらないものだと圭司は思った。

『だから、あの不倫野郎、
 よけいに許せないんだよ。
 妻子があって、
 まだ早苗を自由にしようとしてやがる』

『まぁそうだな。
 妻子があるってのはダメだな。
 でも、揺れてるだけで、
 ヨリ戻したってわけじゃないんだろ?』

『今のところは、
 早苗のプライドが盾になってるようなんだ。
 時間の問題かもしれんが』
 
『それにしても、今は浩ちゃんが
 早苗の彼氏ってことだろ?』

そういう約束はしていない、と渡瀬は首をふった。
カラダを許されはしたが、気持ちが中途ハンパな早苗を恋人として扱えば、早苗の心の負担になる。
そうはしたくないのだと言った。

『早苗を待つ』のが、今の渡瀬にできる最大の愛情表現なのだ。
おそらく早苗はそれが嬉しかったに違いない。
ふたりでカレーをつくったのは、時間をかけて渡瀬への愛情を育てようという、早苗なりの回答なのだろうと、圭司は合点がいった。
自分のスペックに唯一欠ける家庭的という項目に、早苗はあえて挑んだのだ。

『そうか、
 で、仲良くカレー作ったんだな』

『カレーは早苗が言いだしたんだ。
 ちょっとは自分もできるようになりたいって。
 一緒に買いもの行ったんだけどさ、
 あいつ、なに買っていいのかわからないんだよ。
 で、売り場で見ず知らずのオバサンに
 カレーの材料聞いてさ』

『へぇ、頑張ったんだなぁ』

『けなげっていうか、前向きっていうか。
 スーパーの野菜売り場で、
 恥かきながら一生けんめいメモってさ。
 それ見てると泣けてくるんだよ。
 だから、作り方は俺が調べて
 レシピ書いたんだ』

渡瀬は折りたたんだ紙をポケットから出した。
プロイラストレーターがささっとサインペンで描いたレシピは良くできていて、色を付けていくつかまとめれば、立派な料理本にできるじゃないかと圭司は言った。


 
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