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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 

『圭ちゃん、俺、絵本あきらめる』

『はぁ? なんだ急に』

『イラスト一本でいこうって決めた』

渡瀬の発言は圭司には意外だった。

『早苗が
 俺のとこに収まってくれるんなら、
 俺は何かひとつ
 あきらめないといけないって思ってた。
 あれもこれもって人は手に入れられない。

 だからコンテストも出品しない。
 稼業に集中するよ。
 今まで仕事の合間に絵本描いてきたけど、
 その時間も仕事する。
 まずは稼いで、早苗と一緒になりたい』

早苗を得るために、少しでも地面に根を張った生きかたをしようということなのだろう。
勇気ある決意だと圭司は思った。
夢を捨てることの難しさは、圭司にも痛いほどわかる。

『そうか。
 浩ちゃんが決めたんなら、
 それが、浩ちゃんの道だ。
 がんばれ』

『圭ちゃんは?
 麻衣ちゃんどうするんだ?』

『どうするって、
 会ってまだ三日だ。わかんないよ』

『そうだろうけど、
 麻衣ちゃんは適齢期だろ』

『今どき適齢期って、
 それ気にして男とつき合う女いるか?』 

『あれだけいい子なんだ。
 さっさともらったほうがいいよ。
 俺は、圭ちゃんには才能があると思う。
 でも、いつか
 大きな選択をしなきゃならない時が、
 圭ちゃんにも来るはずだよ』

堅実な身の振りかたを決めた渡瀬の言葉は、圭司が抱える漠然とした仕事への不安をあおり、焦りを感じさせた。

『ご忠告ありがたく頂いとくよ』

痛いとこをつくヤツだな、と圭司は、渡瀬が少しうとましくなった。
タイミングよく、『いいわよぉ』という早苗の声がして、

『片づけがあるから先に入ってこいよ』

と渡瀬を小屋から追い払った。


 
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